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神罰が一回だけとは限らない

10 地獄の始まり

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 まだ話は終わってはいないもの。王印のことが残っているわ。

 私はリアス様と本音を語れるようになりたいの。自分でも理解してるわ。私の我儘だってね。でも、私は我儘を突き通す。だから、最後まで話を聞くと決めたの。

 ある程度は予想していたけど、それ以上の話にすでに腸が煮えくり返っているけどね。

 そうでしょ、屑は、いたいけな猫の命と一緒に、リアス様の心に深手を追わせたのよ!! それも、自分の欲望を満たすためだけにね!!

 考えたくないけど、リアス様にとって、これが本当の地獄の始まりだったのかもしれない。

「それからのリアスは、学園では生徒会の仕事、王宮に戻れば、第一王子と王妃殿下の仕事をこなし、睡眠時間は三時間。食事も、仕事をしながら食べられる軽食ばかり」

「だから、あんなに痩せていたのですね……」

 鎖骨を隠し、肌を見せないドレスを着ていても、体の線の細さは隠し切れない。あの婚約破棄騒動の時、リアス様はコルセットをしていなかった。コルセットで締めなくても、あのドレスが着れるってことは、相当ヤバいってことよね。今は、ちゃんと食べてるみたいだけど、それでもまだかなり細いわ。

「体調不良を理由に、パーティーには一切参加していませんでしたので、リアスがあそこまで痩せてることに気付きませんでした。本当に、不甲斐ない親です」

 頭を抱え項垂れる、ダラキューロ様。

 確かにそうね、不甲斐ないわ。でも、今それを責めてもしょうがない。話が進まないもの。

「リアス様にとったら、人質を盾にとられたようなもの。癒やしの場所を変えても、屑は執拗にリアス様を追い詰めようとしたでしょうね」

「はい……体調不良で仕事が進まない時は、リアスに対し、笑いながら脅したようです」

 屑がやりそうなことだわ。

「そう……おそらく、一度や二度ではないでしょうね。ダラキューロ様、これは私の想像なのだけど、あそこまで似ている屑たちなのだから、国王も同じようなことをしたのではなくて?」

 王印を押させるために。

 思考回路と己の欲望に忠実で、それを叶えるためには神をも利用しようとしたのよ、あいつらは。自分さえよければ、他者の命を奪うのも躊躇しない、許されると思ってる屑たちよ。現に王門を閉め、民を見捨てたわ。

「……ミネリア王女殿下のご推察通りです。王印を代わりに押せと命じられ、拒否した娘に対し、国王はリアス付きの侍女の命を盾にとったそうです。『可哀相にな、リアスの我儘のせいで、あの猫と同じ運命を辿ることになるとは』と笑いながら抜かしたとーー」

 ということは、あの屑がしたことを国王は知っていたことになるわ!! もしかしたら、あの屑は、面白半分に国王に話したのかもしれない。

 マジで、命をなんだって思ってるの!! 一度失ったら、絶対戻ってこないのよ!! 貴様らは、神にでもなったつもりか!!

 怒りで奥歯をギリギリと噛み締める。まだ駄目よ。ここでキレたらいけない。

「……侍女を人質に? 第一王子妃の侍女ならば、貴族なのでは?」

 とても低い声で、私は話を進める。重要だから。

 もしかして、貴族ではなく平民を? それか、下位貴族の庶子を当ててたの……やりそうだわ。屑たちはリアス様を道具でしか見てないもの。壊れては困る道具だから、形ばかりの貴族子女を侍女に付けた。いつでも使い捨てができるように。

「リアスに付けられた侍女は、男爵が平民の間に産ませた庶子でした。リアスに同情し、親身に世話をしてくれたそうです。しかしリアスは、自分のせいで猫を死なせてしまった。その負い目から、冷たく接していたようです」

 なんて、過酷な環境にいたの、リアス様!! 

 私なら、絶対、おかしくなっていたわ。精神も肉体も。そんな状態に置かれていても、侍女を護ろうとしたなんて……その優しさと強さに称賛だわ。

「そうでしょうね。リアス様は屑の巣窟に身を置いていたのだから、気を抜くことはできなかったでしょう。監視の目が常にあったのだから。……理解しましたわ。リアス様が王印を押した理由が。……それで、その侍女は?」

 人質なら、生かしておくのが定石。

 そう考えた私が甘かったと、つくづく思い知ったのはその後だった。


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