上 下
29 / 78
神罰が一回だけとは限らない

07 ずっと不思議でしたの

しおりを挟む


「失礼いたします」

 そう声を掛け部屋に入って来たのは、リアス様のお父様のダラキューロ様。

 今日、リアス様は他の侍女と共に王都に使いにやっているから大丈夫。同行している侍女にはできる限り、時間を延ばすように指示してるしね。

「どうぞ、お座りになって」

 私がそう答えると、ダラキューロ様はソファーに腰を下ろした。侍女と騎士は脇に控えている。

 向かいに座る私の隣には、もちろんイシリス様。二人っきりで話したいってお願いしたけど、一笑されちゃったわ。ダラキューロ様って、お父様と年齢変わんないのにね。おかしいよね。

「ミネリア王女殿下、今日もご機嫌麗しくーー」

「固っ苦しい挨拶は不要ですわ」

 私はダラキューロ様の挨拶を遮る。時間が勿体ないからね。

「わかりました」

 小娘に遮られても、表情一つ変えないわ。さすがね。

「ダラキューロ様、ベルケイド王国には慣れましたか?」

 お茶をすすめながら尋ねた。

「そうですね。こちらに来てから、色々ありましたが、充実した日々を過ごさせてもらっております」

 色々ね……オブラート、百枚包んでやっとそう表現できるんじゃないかな。皆、過激だからね。なんせ、日々、魔物と対峙している家だから仕方ないわ。家族愛強いし。

「それなら、よかったですわ。これからも、お父様とベルケイド王国をよろしくお願いしますね、ダラキューロ様」

「はい」

「ダラキューロ様、実はお訊きしたいことがありまして、本日、ここにお呼びいたしましたの」

「訊きたいことですか? リアスが何か粗相を?」

 宰相の顔から父親の顔になる、ダラキューロ様。

 好感度上昇中。

 イシリス様の機嫌は急降下。

「いいえ。リアス様はよくしてくださりますわ。博識で、マナーも長けていらっしゃいます。私みたいな、成り立てホヤホヤの小国の王女にとって、リアス様はなくてはならない存在ですわ」

「……そう言っていただくと、リアスも喜ぶと思います」

 そう答えるダラキューロ様の表情が一瞬曇ったように感じた。気のせいって言われたら、そうかと納得しそうなくらいだけど。

「ダラキューロ様、まだ先の話になりますが、私はリアス様に、私の専属侍女になって欲しいと考えていますの。それだけの能力と信頼がありますから。しかし……今のままでは、専属にはできませんわ。どうしてか、わかりますか?」

「……自己評価の低さですか」

 ちゃんと、娘のことを見ているのね。さらに好感度上昇。なら、話が早いわ。

「ええ。侍女とはいえ、私の専属になれば、文官の仕事を兼ねることになります。時には、聖騎士団やお兄様の従者、魔法師団とも交渉することがあるでしょう。……確かに、リアス様自身、交渉術を身に付けていらっしゃるようですが、我がベルケイド王国は、王国や他国ほど甘くはありませんわ。皆、過激で曲者揃いですからね、簡単に食われてしまいます。それでは困るのです。なので、ダラキューロ様にお訊きしたいのです。なぜ、リアス様は、そこまで自己評価が低いのですか?」

「それは……」

 ダラキューロ様は言い淀む。

 私はさらに続けた。
 
「ずっと、不思議でならなかったの。だって、リアス様は努力を惜しまない方よ。何度も何度も躓き、それでも折れることなく努力し、今のリアス様がいる。そんなの一目見れば、すぐにわかりますわ。私は知ってますもの。努力し、身に付けたものは自信に繋がるってことを。でも、リアス様は違う。それはなぜ? ……実際、ここに来てからも、リアス様は頑張ってますわ。わからないことがあれば、他の侍女に頭を下げ訊いている。そんなこと、普通の公爵家の令嬢が普通できると思います? できませんわ。それができるから、私はリアス様を傍に置きたいと思ったのです。……もう一度訊きますわ。なぜ、リアス様は自己評価が低いのですか?」

 絶対、答えてもらうわよ。やや圧を加えながら、私はダラキューロ様に再度尋ねた。

「……それは、全て、娘を護れなかった私が悪いのです」

 少しの間の後、ダラキューロ様は苦しそうにそう告げ、話しだした。その内容は、私が想像していたことを遥かに超えたものだったの。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の幼馴染の方がすごいんですが…。〜虐められた私を溺愛する3人の復讐劇〜

めろめろす
恋愛
片田舎から村を救うために都会の学校にやってきたエールカ・モキュル。国のエリートたちが集う学校で、エールカは学校のエリートたちに目を付けられる。見た目が整っている王子たちに自分達の美貌や魔法の腕を自慢されるもの 「いや、私の幼馴染の方がすごいので…。」 と本音をポロリ。  その日から片田舎にそんな人たちがいるものかと馬鹿にされ嘘つきよばわりされいじめが始まってしまう。 その後、問題を起こし退学処分となったエールカを迎えにきたのは、とんでもない美形の男で…。 「俺たちの幼馴染がお世話になったようで?」 幼馴染たちの復讐が始まる。 カクヨムにも掲載中。 HOTランキング10位ありがとうございます(9/10)

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】婚約を信じた結果が処刑でした。二度目はもう騙されません!

入魚ひえん
恋愛
伯爵家の跡継ぎとして養女になったリシェラ。それなのに義妹が生まれたからと冷遇を受け続け、成人した誕生日に追い出されることになった。 そのとき幼なじみの王子から婚約を申し込まれるが、彼に無実の罪を着せられて処刑されてしまう。 目覚めたリシェラは、なぜか三年前のあの誕生日に時間が巻き戻っていた。以前は騙されてしまったが、二度目は決して間違えない。 「しっかりお返ししますから!」 リシェラは順調に準備を進めると、隣国で暮らすために旅立つ。 予定が狂いだした義父や王子はリシェラを逃したことを後悔し、必死に追うが……。 一方、義妹が憧れる次期辺境伯セレイブは冷淡で有名だが、とある理由からリシェラを探し求めて伯爵領に滞在していた。 ◇◇◇ 設定はゆるあまです。完結しました。お気軽にどうぞ~。 ◆第17回恋愛小説大賞◆奨励賞受賞◆ ◆24/2/8◆HOT女性向けランキング3位◆ いつもありがとうございます!

【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

処理中です...