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巻き込まれて独立しました

12 決別

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 やるべきことを終えたんだから、もうこの場に残る必要はないわね。

「行きましょうか? イシリス様」

 私がそう声を掛け離れようした時だった。リアス様が頭を下げ、私たちに少し時間をくれるようお願いしてきた。

「聖獣様、ミネリア様、少しお待ちいただけますでしょうか? やり残したことがありますので」

 やり残したこと? 

 不思議に思いながらも、リアス様の凛と佇む姿に私は許可した。

「それは構いませんわ」

「ありがとうこざいます」

 リアス様は頭を再度下げ礼を言うと、まだ抑え付けられている馬鹿王子の前に立った。

 あっ、いたんだわ。存在、完全に忘れてたわ。

「…………リアス」

 馬鹿王子が媚びるように笑う。心の中の醜さが表に出て来たような笑みに、私は顔を歪める。

「醜いわね……」

 その声は小さかったけど、イシリス様にははっきりと聞こえていたみたい。

「早くせよ。リアス」

 不愉快そうにリアス様に命じた。

「はい。畏まりました」

 そうイシリス様に答えてから、リアス様は馬鹿王子に向き合う。

「……リアス、お前はわかってくれるよな。私はこの女に騙されたんだ……頼む、ミネリア様に私を許してくれるように言ってくれ……頼む……リアス!!」

 リアス様に縋り付き、命乞いをする馬鹿王子。さすがの馬鹿も、リアス様しか命綱がないってわかってるみたいね。本能? でも、そう上手く行くわけないでしょ。

 見てよ。

 段々絶望していく、馬鹿王子の顔。

 必死でリアス様の名を呼び嘆願する。その様って、ほんと惨めよね。そんな中でも、マリアって女は変わんないけど。

「何言ってるのよ!! 私一人に罪をなすり付けるつもり!! そんなの許さないわ!! それに、おかしいわ!! 私は【聖なる乙女】になるべき女なのよ!! 物語ではそうなってるんだから!!」

 叫ぶ女。

 物語? どういうこと?

「知るか!! この魔女が!! 頼む……リアス、私は魔女の術にはまってしまっただけなんだ……だからーー」

 リアス様は途中で馬鹿王子の言葉を遮る。そして、冷え冷えとした声で告げた。

「貴方は、最後まで、御自身のことだけですのね。聖獣様にも、ミネリア様にも、私にも謝罪一つなく、御自身の身の安泰だけを願う。昔の貴方はそうではなかったのに。非常に残念ですわ。貴方も王族であるのなら、最後は国と共に朽ちなさい。……ジェイド王子殿下、婚約破棄、確かに承りましたわ」

 告げるだけ告げるとリアス様は王子に背を向け、イシリス様に頭を下げ礼を述べた。

「お時間をいただきありがとうございます、聖獣様、ミネリア様」

「構いませんわ。ね、イシリス様」

 イシリス様の首元を撫でながら、イシリス様に話し掛ける。

「ミネリアがそれでいいなら構わん」

 ほんとに、イシリス様は優しい。幸せだわ。

「では、今度こそ、我が国に戻りましょうか」

 私はそう告げると、宰相様とリアス様と一緒に王国を後にした。もちろん、公爵家の使用人たちも配下の人間も一緒にね。前々から準備はしていたみたいね。

「……これは序の口よ。これから降り続くわよ。災厄が次々とね。せいぜい苦しみなさい。自分たちの愚かさを」

 背後で鳴り響く落雷の音を聞きながら、私は小さな声で呟いたーー。


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