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巻き込まれて独立しました

03 根本的に無理があるよね

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「何をしている!? 早く中央に出て来ないか!! それとも、今さら罪の重さに怖じ気ついたか!!」

 馬鹿王子が叫んでいる。

 罪ってなによ……そもそも、話したことないよね。もしかして、私巻き込まれたの?

 戸惑いが隠せない。

「ーーミネリア」

 反対に、イシリス様は激おこです。

 声からもだけど、寒い日に外で話している時みたいに、白い息が吐き出されている。室内には腕を出したドレスを着ている人が多いのにね。なので当然、

「急に寒くなったな、窓でも開いてるのか?」

 周囲から、そんな声が聞こえてきた。そんな中でも、馬鹿王子は怒鳴り続けている。

「イシリス様、呼ばれてますから行って来ますわ」

 溜め息を吐いてから、私はイシリス様に言った。

「行く必要ない!!」

 イシリス様は私の身を案じ止める。

「大丈夫ですわ。どうせ、国王陛下と王妃殿下が来られるまでですわ。それに、私に罪があると抜かしているのです。きっちりと、晴らさなければなりませんわ。私たちの未来のためにも」

 イシリス様の気持ちは嬉しいけど、売られた喧嘩は買う。我が家のもっとうなの。元々、イシリス様も好戦的だから、私の意気込みは理解してくれるよね。

「……はぁ、わかった。思いっ切りやってくるといい」

 止めても無駄だってわかったのか、溜め息を吐きながらも認めてくれた。でも、口角は上がっている。

 イシリス様に許可をとっている間も、馬鹿王子は怒鳴り続けている。

 ほんと、煩いわね。それじゃあ、行きますか。お腹もほどよく膨れたし、頭は冴えてますわ。

 淑女らしく、ゆっくりと中央まで進む。

 皆の視線が私に集まった。

 リアス様は、巻き込んでしまって申し訳なさそうな表情で私を見ている。やや青い顔色で。まぁ、そりゃあそうよね。リアス様は知ってるもの。馬鹿王子が知らないのは理解できないけど。馬鹿なんだからしょうがないわね。

 私は「大丈夫ですわ」と伝える意味で、リアス様に向かって小さく頷いた。

「お呼びでしょうか? 第一王子殿下」

 私はリアス様の斜め後ろに立つと、淑女としてカーテシーをする。一応まだ、第一王子だからね。

「遅いぞ!!」

 馬鹿王子は怒鳴る。

「それは、申し訳ありません。婚約者と話をしていましたから」

 私がわざわざ婚約者って言ったことに、リアス様はさらに表情を固くされた。 

 それを、動揺だと勘違いする馬鹿王子と馬鹿側近候補。さらに息巻いてくる。

「さすがの、リアスもこれで逃げられまい!! 私は知ってるんだぞ!! リアス、お前の指示でそこの女を使い、マリアに酷い虐めをしていたことをな!!」

 いやいや、私、マリアって女を間近で見たのは今日が初めてだけど。

「なにをおっしゃいますか? 頭は大丈夫ですか? 私がミネリア様を使い、マリアさんを虐めたなどありえませんわ」

 呆れたように答えるリアス様に、馬鹿王子の側近候補の一人が怒鳴り付けた。

「どこまでも、面の皮が厚い方ですね。知っているんですよ、マリアさんと一緒のクラスである、そこの女を使い、マリアさんを虐めるよう指示していたのを!!」

 ん? 私がマリアさんと同じクラス? いたかな、彼女?

 リアス様は扇を器用に広げると口元を隠す。その優雅さに感嘆。

「なにを笑ってるんだ!!」

 側近候補が怒鳴る。馬鹿王子はあざとく震えているマリアって女を背に庇いながら、リアス様と私を睨み付けている。

 こりゃあ、全部終わった後、命ないわね。

 リアス様ほど優雅ではないけど、口元を扇で隠しながら思う。

「笑って当然ですわ。ミネリア様には不可能ですもの。そうでしょう、ミネリア様」

 リアス様が振ってくれた。

「ええ、不可能ですわ。なぜなら、私はマリアさんと一緒のクラスではありませんもの」

「嘘を吐かないで!! ミネリアさん、私は知ってるの、ミネリアさんがリアス様に脅されて、無理矢理言うことを聞かされてるのを」

 ここにきて、マリアって女がしゃしゃり出てきた。

 うっわ~子鹿みたいに震えてるよ。大きな目に涙いっぱい溜めて。全身で、か弱さと健気さをアピールしてるよ!! これ、傍目から見たら、完全に悪者は私たちの方よね。まぁでも、見た目だけに騙されるわけないけどね、貴族社会って、そんなに単純じゃないわよ。単純なのは、目の前にいるお馬鹿さんだけ。

「マリアさんって仰ったかしら、誰かと間違えていませんか? 私はマリアさんとは違うクラスです。リアス様と同じクラスですわ。お疑いなら、先生にお尋ねになったらどうです?」

 さぁ、どう反論するのかな?

 私がマリアさんと同じクラスじゃないと、そもそも成立しないよね。それよりも気付いてる? 馬鹿王子たちを見ている貴族たちの目が、冷たくなっていることに。それとなく気付いてるのは、マリアさんだけね。少し、顔が歪んだもの。私の目は誤魔化されないわよ。

「この、平凡な女がリアスと同じクラスだと!? 嘘を言うな!!」

 馬鹿王子が唾を飛ばしながら怒鳴る。汚いから止めて。

「嘘ではありませんよ、第一王子殿下。ミネリア様は学年トップの成績を誇る才女ですよ、二位である私と同じSクラスなのは当然ではありませんか?」

 傍観している貴族たちから感嘆の声が漏れた。同時に上がるのは、馬鹿王子たちがどのクラスかってこと。

 ちなみに、Sクラスじゃないわよ。前は一緒だったんだけどね、皆。いつの間にかいなくなっちゃった。まぁ勉強もしないで、授業サボりまくりで、女と遊んでいたらクラス替えさせられるわ。一応、実力主義をもっとうとしてるからね。

 あっ、それよりも気付いてる? リアス様が馬鹿王子の名前を呼ばなかったことに。完全に筆頭公爵家が見捨てたってことだよ。敵に回して生きていけるのかな、この国で。


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