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一生続くデスゲーム
しおりを挟む「こんな人気がない所に来て、あの女がそんなに気になるのか?」
振り返ると、かなり面白くなさそうな表情をしたカイナル様が立っていた。
「まぁ、それなりに。同情など一切しませんが、見送る者が誰一人いないのは、あまりにも寂しいと思いまして」
私が今いるのは、この王都の中で一番高い時計塔の見晴台だ。王都の中央に建っているから、王都の外に続く大通りがよく見える。
でも私が見ているのは、正門ではない、もう一つの門に続く細い道。その先は、裏門へと続いている。主に、罪人や奴隷、死人が通る道だ。
その道を、檻で囲まれた護送車が一台、裏門に向かって進んでいた。
罪人の護送は今日はユベラーヌしかない。なら、あの護送車がそうだろう。
まだ、気絶したままかな?
目を覚ました時、あの女は発狂するでしょうね。でも、決して楽にはなれない。最低限の治癒、そして高い精神維持の魔法が、奴隷紋には組み込まれているから。
つまり、どうにか身体が動かせるほどの治癒、そして、精神が壊れないように、強固な魔法が施されているの。あとは、逃亡防止とか……諸々にね。想像するだけで、身体が震えるわ。
ゼシール王国としては、いずれ、コーマン王国を吸収したいと考えているようね。その前に、落とし前をきちんと付けてからだろうけど。
ほんと、怖いよね。
でもそれが、国を維持し発展させるのだから。
「シアは優しすぎるな。でも、そこがシアらしくて、俺はホッとする」
そう言いながら、カイナル様は私を片腕で抱き上げ、頭にキスをする。
たぶん、匂い嗅いでるよね。こういう所は、今だに慣れない。慣れないけど、我慢するしかないよね。亜人族は匂いに重点を置いてるから。
とはいえ、私は反論できないの。だって、カイナル様のブラッシングの時、お腹に飛び込んで、思いっきりスリスリして匂いを嗅いでるから。
もふもふは正義。
そう、もふもふの前では多少の我慢などたいしたことないわ。
「優しいって言うのは、カイナル様ぐらいですよ」
「そうか……どうした? 寒いのか?」
私が自分から身体を寄せてきたことに、カイナル様は驚いてから、あたふたと心配しだす。
「……少しだけ寒いです」
心が冷えているの。だから、カイナル様に温めて欲しい。私が無条件に甘えれるのって、カイナル様しかいないからね。滅多にしないけど。
カイナル様の大きな身体が、私の小さな身体を包み込む。それだけで、私はホッとし息ができる。気持ちがリセットできるんだよ。
いつから、私はカイナル様を受け入れたのかな……
忘れたわ。いつの間にか、受け入れていたっていうのが正解かな。
恋愛小説に出てくるような淡い恋心とか、全くないけどね。でも、「好きか?」って訊かれたら、迷うことなく「好き」って答えるわ。そうでなければ、ここまでしないよ。
不思議だよね。
思い返してみれば、拉致監禁から始まったんだよ、私たち。よく、番だって受け入れたよね。
私の行動と言葉で、簡単に闇落ちするカイナル様。
言葉を選びながら、でも、私の意見も言いながら、即監禁したがるカイナル様との人生を賭けたデスゲームを、今も繰り広げてる。
まぁ、監禁されていないところをみると、今は私が優勢かな。
たぶん……一生続くような気がするわ。
私とカイナル様とのデスゲーム。
負ける気はないから、本気で回避にいきますよ、カイナル様。だから、覚悟して下さいね。私も覚悟を決めたのだから。
「帰ろうか、シア」
とろけるような笑顔のカイナル様。
「はい」
私も微笑みながら答えた。
カイナル様の瞳に映る私も、彼に負けないくらい幸せ一杯の笑顔だったよ。
大好きですよ、カイナル様。
この気持ちが、愛に変わるかはカイナル様次第ですね。
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