ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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ユベラーヌの最後

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 裁判長の台詞もだけど、とどめを刺したのは、間違いなくカイナル様ね。

 これはもう、偶然じゃない。明らかに、計算された結果だわ。これのどこが王子様よ。

「これで、シアに手を出したらどうなるか、皆にもよくわかっただろう」

 期待を裏切らない台詞だね。

 他国の王女をここまで容赦なく、合法的に落としたのだから、よほどのことがない限り、手を出しては来ないでしょう。

 まぁ、それでも出してくるとしたら、お花畑の人か、自分を過大評価している人だけかな。少なくとも、私たちの周りにユベラーヌ以上の人はいないから大丈夫でしょ。

「内外に、ですね」

 ここは、私も微笑むところよね。

「ああ。それに今回は、シアも矢面に立ってくれた。俺は愛されてるな、とても嬉しい」

 満足しきった顔で、カイナル様はユベラーヌを見下ろしている。

 あの女のことは大嫌いだけど、同情はするわ。完全に当て馬よね。利用されて、踊らされて、とことん使われてポイッとされた。心底哀れだわ。

 でもね、因果応報じゃない。散々、今まで自分がしてきたことが、我が身に返ってきただけでしょ。

 人を好きになる気持ちはわかるし、その人に恋人や番がいても、諦められなくて、好きな気持ちを抑えられないこともあるでしょう。そのことを責めたりはしないわ。人を想うのは自由だから。

 誤算だったのは、相手が魔王のような男だってことよ。

 そして、そんな男の番になることを認め、覚悟を決めている私を相手にした、この二点ね。

「番を護るのは当然なのでしょう」

 今回、私が表に出てきたのは、私の存在を皆に知らしめるため。

 名前と身分、そして人族。

 それだけで、他者は私という存在を勝手に解釈し、優劣を付けた。カイナル様やコルディー公爵家の過保護も拍車をかけたわ。

 亜人族の根本は弱肉強食。

 今までの騒動の原因は、私を弱者、底辺だと思っていたからだ。だから、こんなことをしても許されると勘違いした。

 私は正式に婚約を発表する前に、その認識を改めさせたかった。

 いや、改めさす必要があった。

 カイナル様のために――

 カイナル様の番、ゼシール王国の王女という装備品を脱いでも、戦えるってことを証明したかったの。ただの弱者じゃないと言わしめたかった。この場を逃したら、次はないってことぐらいわかっていたからね。

 絶好の機会を逃せない。

 そう考えると、私もカイナル様と同様、あの女を利用したことに変わりはないわね。

「……そうだな」

 カイナル様はなんとも言えない顔で笑った。

 自分が護りたい気持ちと、護られて嬉しい気持ちが拮抗してるのね。ほんと、わかりやすい。

「カイナル様、そろそろ判決が出ますよ」

 一時間も掛からない裁判。

 ユベラーヌの罪は明らかだったからね。

 一応、弁護人もいるけど、それは裁判を円滑に進めるための飾り。検事人は、一方的に罪状を読み上げ、証拠を見せ積み上げている。

 そもそも、使用不可の禁術を使用しただけで極刑は決まっているのだから、他の罪は添え物程度よね。まぁその中に、王族の殺人未遂が含まれているけど。

「被告人ユベラーヌ、顔を上げなさい。今から刑を言い渡す。主文、被告人を犯罪奴隷とし、鉱山で三十年働かせることとする。その後、王都引き回しの上、極刑とす」

 ユベラーヌは微動だにせず、ただ項垂うなだれながら一点を見詰めていた。

 やっぱり、簡単には死なせないみたいね。でも、妥当な判決だと思う。禁術以外の罪も、ちゃんと罰をくだしてくれたからね。

 裁判官たちが退出し、速記者などの事務官も続いた。ユベラーヌは項垂れたまま、騎士たちに両脇を抱えられ、半ば引きづられるように退出する。

 このあと、裁判官立ち会いのもと、別室で奴隷紋が刻まれる。

 決して消えることのない、奴隷紋。

 それは、のたうち回るほどの苦痛らしい。

 悲鳴を上げ、気絶してしまう人もいるそう。

 気絶しても、目を覚ませば、待っているのは鉱山での発掘作業。でもユベラーヌは女、危ない発掘作業よりも……そこまで考えて、私は考えるのを止めた。



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