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最後の仕上げだそうです
しおりを挟む「被告人ユベラーヌ、前に出なさい」
中央に座っている裁判長が、厳しく、そして淡々と告げた。
ざわめく法廷の場。
ユベラーヌが入ってきた時よりも、ざわめく声は大きい。
すぐに、裁判長は「静粛に」と傍聴者を注意した。
その声に、大勢いる傍聴者たちは一斉に口を閉じる。やっとの思いで、高い倍率の中、券を勝ち取りこの場にいるのに、些細なことで追い出されたくはないからね。まぁでも、騒ぎたくなる気持ちはわかるわ。
平民であるユベラーヌには家名はない。なので、読み上げられることはない。
この時点で、裁判を見学に来た者たちは、あの女が王女ではなくただの平民に堕ちたことを、改めて知ったはず。
名前を呼ばれる前から、ドレスやワンビースでもなく、囚人服を着ての登場なのだから想像は容易にできたでしょう。さらに深読みもできるわね。あの女の所業を知っている人から見たら、信じられない光景だと思うわ。
堕ちるところまで堕ちたって感じね。
返事もなく、ユベラーヌは暗い表情のままフラリと立ち上がる。そしてゆっくりと歩き、指定された場で立ち止まった。
まるで、覇気のない幽鬼みたいな様に、私は言葉を失う。どんな尋問をしたか、訊くの止めといてよかったわ……想像するだけで、トラウマレベルね、絶対。
それにしても、実際この目で裁判を傍聴するのは初めてだけど、この裁判自体が異様だということはすぐにわかった。
だって、ユベラーヌの両脇に近衛騎士が立っているからね。それに首には、魔力封じの枷が装着されている。まるで、奴隷のように。その上、傍聴席の前には結界が張られているからね。かなりの警戒しているのと同時に、重罪人だと皆に知らしめているわ。
「被告人、名前を言いなさい」
裁判長が尋ねる。
「…………ユベラーヌ・コーマン。コーマン王国の第二王女ですわ」
小さい声だけど、ユベラーヌははっきりと言い切った。
「すでに、王籍は剥奪された旨が記された書類が提出されている。精査した結果、確かにコーマン国王陛下の署名だと確認できた。故に、被告は平民だ」
何度も説明されてると思うけど、どうやら、未だに納得できてないみたいね。っていうか、したくないんだね。
「なら、私はコーマン王国の民よ。他国の者を勝手に裁判に掛けるなど、許されぬことです。恥を知りなさい」
まだ、それだけ言える元気があったことに驚きだわ。そんなことを考えていると、隣からクスッと笑う声がした。笑っていたのはカイナル様。
うわ~すっごく、楽しそう。もしかして……わざとギリギリのところで止めてたの……怖っ。引くわ、かなり引く。
「どうした? シア」
さっきとはまるで違う笑顔が、なお怖い。でもまぁ……それが、カイナル様なんだよね……
「……カイナル様、この公開裁判で完璧に折るつもりですね」
「わかったのか!! さすが、俺の番」
褒めてほしそうだけど、私がしてってお願いしたわけじゃないからね。だけど、ここで褒めないと、さらに突き進みそうだし、仕方ないわね。
私はカイナル様の耳元に口を寄せ囁いた。
「帰ったら、久し振りにブラシさせてくださいね」
「シア!!」
「止めてください!! もししたら、ブラシなしです」
いつもと同じように膝に乗せられそうになったけど、必死で阻止したよ。ブラシなしは、思いの外効果覿面だったよ。瞬時に忘れたようだけど、ここ、屋敷じゃないからね。神聖な場所でしょ。
ブラシって、カイナル様にとっても褒美だけど、私にとってもそうなんだよね。
そんなやり取りをしていたら、アベル殿下とスノア王女殿下に呆れた目をされたよ。バッチリ聞かれてました。穴があったら入りたい。
でもね……あの女は私のことを睨んでいたの。すぐさま、騎士に頭押さえられていたけど。
だから、私はそのさまを見て、ニッコリと微笑んでやった。あの女、真っ赤な顔になってるわ。完全に私とカイナル様に意識が向いてるわね。
いいの? 今、裁判長、結構大事なこと話しているわよ。
「被告が犯した罪に関して、ゼシール王国で裁いても構わない旨も明記されている。故に、国際上問題は何もない」
「えっ…………」
呆然とユベラーヌは裁判長に視線を向ける。
「よいか、被告はゼシール王国の法によって裁かれ、罪を言い渡される。コーマン王国も了承済みだ」
表情一つ変えずに裁判長は告げる。
つまり、二度とコーマン王国には帰れないってことよ。極刑後はわからないけど。わざわざ罪人の遺体を送り返したりはしないよね。
ユベラーヌは藁でも縋る目で、カイナル様を見詰める。
まだ、カイナル様を自分の運命の番だって思ってるのかな? それとも、自分を救う王子様? 違うでしょ、カイナル様はどこからどう見ても魔王だわ。
現に、カイナル様はクスッと笑いあの女を見下ろしている。
とてもとても冷たく暗い目で――
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