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悪役には悪役を。悪役令嬢には悪役令嬢を
しおりを挟む「私は言いましたよね。魔法に掛かったと。ならば、解呪されたと考えるのが自然ではありませんか? コーマン王女殿下もよくご存知の通り、我がコルディー公爵家は、武闘だけでなく、魔法にも特化しております。どのような魔法陣を用いたのか、何を媒介にしたのか、使用された魔力の判別と特定など容易にできるのです。それが、解呪された残りカスからだとしても。もう、判別は済んでいるのです」
敢えて方法を告げずに言ったけど、それでも十分言葉を奪うことはできたわね。でもこれはまだ、あくまで状況証拠。判別は済んだと口にしても、この場に物的証拠を何一つ提示はしていない。
それは、ユベラーヌも理解しているわ。想定外のことが起きて、今、必死で頭の中で計算してるわね。そして、あの女は、これから先物的証拠を出すのは難しいと判断する。
何故なら、物的証拠は自分の手元に戻り自ら処理したから――
ほんと、とことん計算し尽くされた狡猾なやり口だわ。マジで怖い。でもね、ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないの。ましてや、カイナル様やコルディー公爵家の皆に、最後まで護ってもらうわけにもいかない。
番は護られて当然。
でもね、何から何まで護って貰うのは違う気がするの。確かに、人族の私は亜人族より弱いよ。劣等種族だよ。それがどうしたの。弱いから何? 私には夢があるの。その夢を叶えるためにも、そしてカイナル様と対等でいるためにも、私は私の矜持を貫くわ。貫かなければならないの――
「そこまで断言するのなら、証拠は当然ありますよね、平民」
あくまで、私を王族には見ないっていうのね。面白いわ。
「貴女は本当に狡猾で頭が切れる方ですわ。媒介にした証拠品は、貴女のお友達がすでに回収済みですものね。そもそも、私が貴女からの提案をはねのけると見こうしての行動なら、さすがとしか言えませんわ。感服しました」
そこまで告げると、あの女は勝利を確信したようね、ニンマリと笑いながら口を開いた。
「つまり、証拠などないと……証拠もなしに、コーマン王国の王女である私に対し、たいした大口を利きましたわね、平民上がりの王女殿下が」
考えていた通りの答えが返って来て、私は内心ほくそ笑む。私の反応を訝される前に、次なる言葉を吐く。
「先走り過ぎですわ。それに、私は魔法は解呪されたと言いましたわ。媒介を回収済みなのに」
「貴女が魔法を掛けられたと仮定して、それが私だと、どう立証なさるつもりなのかしら?」
そう……それさえ証明できれば、私の勝ち。証明できなければ、ユベラーヌの勝ち。もう友好国でもない国だけど、それでも、一国の王女を罪に問うには決定的な一打が必要。
ただお帰りいただくだけで済ます気は、はなからないのよ。
「それなら、貴女がすでに立証してくださいましたわ。待合室で私の前に現れ、今この場で【言霊】を使用した。【言霊】は魔力を言葉にのせたものですから、照らし合わせることができますよね。ユリシアという言葉で従属状態にして、いいえという言葉を強要する。貴女の真の狙いは、私の肉体ですよね。入れ替わりが成功したら、貴女はカイナル様の番になれると考えたようですね。安直すぎますわ。かなり勝算の低い賭けですね」
私の台詞に、周囲は一層ざわめき出す。
さぁ、どう出る?
ユベラーヌを伺っていると、扇を広げ口元を隠すと声高らかに笑った。
「……さすが庶民ですわ。想像力が豊かですこと。その才能をいかして、戯作者にでもおなりなさいな」
マジで、小説の中に存在する悪役令嬢っているのね……私も大概悪役顔で、その立ち位置だけど、あの女には負けるわ。
悪役には悪役を。
悪役令嬢には悪役令嬢を。
私も扇を広げ口元を隠した。まだ子供だけど、それなりには様になるから。
「あくまで認めないと……まぁ、そうですよね。魔力を特定はできても、目視化する技術はないと言われてますから、でも、それ古いですよ。存在するのです、というより、この魔法もまた国によって管理されていますから」
そう、存在するの。当然、カイナル様と私は、その使用許可を国王陛下からもらっている。
私はそう告げると同時に、カイナル様が空中に右手を翳す。
すると、空中に小さな光の玉が現れた。
「何、これ?」
「空中に漂っている魔力の残骸ですよ」
カイナル様が手を動かすと、一つに固まり濃い赤色をした光を放ち始める。
「嘘……」
ショック受けてるわね~その気持ちわかるわ。いくらその魔法が存在していても、使える者がいるとは思わないものね。ほとんど、廃れて忘れられた魔法だからね。理由は、必要性が乏しい上に、複雑で繊細過ぎて、かなりの魔力が必要だから。それを簡単にやってしまうんだもの、驚くよね。
「そしてこれが、私に掛けられた【隷属と精神関与】の魔法の魔力残滓」
私は空中から一枚の魔法紙を取り出すと広げた。
勿論、この場で照らし合わせるためよ。
ユベラーヌの扇を持つ手に力が入ったみたい。扇が変な音を立ててる。ここまで、殺意ありありの目で睨み付けられるの始めてね。
大勢の賓客の前で照合される。まぁ照合されるまでもないほど、同じ色だったけどね。
「コーマン王女殿下、これが物的証拠ですわ。ちなみに、これは余談ですが、この魔法が作られた背景をご存知ですか?」
言葉を失い膝から崩れ落ちるユベラーヌを、私は見下ろしながら問い掛けた。
悪いけど、貴女には見せしめになってもらうわ。これ以上、私やカイナル様の周りを飛ぶ虫の対処は面倒だからね。
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