65 / 73
悪役には悪役を。悪役令嬢には悪役令嬢を
しおりを挟む「私は言いましたよね。魔法に掛かったと。ならば、解呪されたと考えるのが自然ではありませんか? コーマン王女殿下もよくご存知の通り、我がコルディー公爵家は、武闘だけでなく、魔法にも特化しております。どのような魔法陣を用いたのか、何を媒介にしたのか、使用された魔力の判別と特定など容易にできるのです。それが、解呪された残りカスからだとしても。もう、判別は済んでいるのです」
敢えて方法を告げずに言ったけど、それでも十分言葉を奪うことはできたわね。でもこれはまだ、あくまで状況証拠。判別は済んだと口にしても、この場に物的証拠を何一つ提示はしていない。
それは、ユベラーヌも理解しているわ。想定外のことが起きて、今、必死で頭の中で計算してるわね。そして、あの女は、これから先物的証拠を出すのは難しいと判断する。
何故なら、物的証拠は自分の手元に戻り自ら処理したから――
ほんと、とことん計算し尽くされた狡猾なやり口だわ。マジで怖い。でもね、ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないの。ましてや、カイナル様やコルディー公爵家の皆に、最後まで護ってもらうわけにもいかない。
番は護られて当然。
でもね、何から何まで護って貰うのは違う気がするの。確かに、人族の私は亜人族より弱いよ。劣等種族だよ。それがどうしたの。弱いから何? 私には夢があるの。その夢を叶えるためにも、そしてカイナル様と対等でいるためにも、私は私の矜持を貫くわ。貫かなければならないの――
「そこまで断言するのなら、証拠は当然ありますよね、平民」
あくまで、私を王族には見ないっていうのね。面白いわ。
「貴女は本当に狡猾で頭が切れる方ですわ。媒介にした証拠品は、貴女のお友達がすでに回収済みですものね。そもそも、私が貴女からの提案をはねのけると見こうしての行動なら、さすがとしか言えませんわ。感服しました」
そこまで告げると、あの女は勝利を確信したようね、ニンマリと笑いながら口を開いた。
「つまり、証拠などないと……証拠もなしに、コーマン王国の王女である私に対し、たいした大口を利きましたわね、平民上がりの王女殿下が」
考えていた通りの答えが返って来て、私は内心ほくそ笑む。私の反応を訝される前に、次なる言葉を吐く。
「先走り過ぎですわ。それに、私は魔法は解呪されたと言いましたわ。媒介を回収済みなのに」
「貴女が魔法を掛けられたと仮定して、それが私だと、どう立証なさるつもりなのかしら?」
そう……それさえ証明できれば、私の勝ち。証明できなければ、ユベラーヌの勝ち。もう友好国でもない国だけど、それでも、一国の王女を罪に問うには決定的な一打が必要。
ただお帰りいただくだけで済ます気は、はなからないのよ。
「それなら、貴女がすでに立証してくださいましたわ。待合室で私の前に現れ、今この場で【言霊】を使用した。【言霊】は魔力を言葉にのせたものですから、照らし合わせることができますよね。ユリシアという言葉で従属状態にして、いいえという言葉を強要する。貴女の真の狙いは、私の肉体ですよね。入れ替わりが成功したら、貴女はカイナル様の番になれると考えたようですね。安直すぎますわ。かなり勝算の低い賭けですね」
私の台詞に、周囲は一層ざわめき出す。
さぁ、どう出る?
ユベラーヌを伺っていると、扇を広げ口元を隠すと声高らかに笑った。
「……さすが庶民ですわ。想像力が豊かですこと。その才能をいかして、戯作者にでもおなりなさいな」
マジで、小説の中に存在する悪役令嬢っているのね……私も大概悪役顔で、その立ち位置だけど、あの女には負けるわ。
悪役には悪役を。
悪役令嬢には悪役令嬢を。
私も扇を広げ口元を隠した。まだ子供だけど、それなりには様になるから。
「あくまで認めないと……まぁ、そうですよね。魔力を特定はできても、目視化する技術はないと言われてますから、でも、それ古いですよ。存在するのです、というより、この魔法もまた国によって管理されていますから」
そう、存在するの。当然、カイナル様と私は、その使用許可を国王陛下からもらっている。
私はそう告げると同時に、カイナル様が空中に右手を翳す。
すると、空中に小さな光の玉が現れた。
「何、これ?」
「空中に漂っている魔力の残骸ですよ」
カイナル様が手を動かすと、一つに固まり濃い赤色をした光を放ち始める。
「嘘……」
ショック受けてるわね~その気持ちわかるわ。いくらその魔法が存在していても、使える者がいるとは思わないものね。ほとんど、廃れて忘れられた魔法だからね。理由は、必要性が乏しい上に、複雑で繊細過ぎて、かなりの魔力が必要だから。それを簡単にやってしまうんだもの、驚くよね。
「そしてこれが、私に掛けられた【隷属と精神関与】の魔法の魔力残滓」
私は空中から一枚の魔法紙を取り出すと広げた。
勿論、この場で照らし合わせるためよ。
ユベラーヌの扇を持つ手に力が入ったみたい。扇が変な音を立ててる。ここまで、殺意ありありの目で睨み付けられるの始めてね。
大勢の賓客の前で照合される。まぁ照合されるまでもないほど、同じ色だったけどね。
「コーマン王女殿下、これが物的証拠ですわ。ちなみに、これは余談ですが、この魔法が作られた背景をご存知ですか?」
言葉を失い膝から崩れ落ちるユベラーヌを、私は見下ろしながら問い掛けた。
悪いけど、貴女には見せしめになってもらうわ。これ以上、私やカイナル様の周りを飛ぶ虫の対処は面倒だからね。
102
お気に入りに追加
452
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
※ご感想・ご意見につきましては、近況ボードをご覧いただければ幸いです。
《皆様のご愛読、誠に感謝致しますm(*_ _)m》

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

契約婚なのだから契約を守るべきでしたわ、旦那様。
よもぎ
恋愛
白い結婚を三年間。その他いくつかの決まり事。アンネリーナはその条件を呑み、三年を過ごした。そうして結婚が終わるその日になって三年振りに会った戸籍上の夫に離縁を切り出されたアンネリーナは言う。追加の慰謝料を頂きます――
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる