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ならば、さらに煙で燻りましょう
しおりを挟む「陛下と王妃様には、リアお姉様から、それとなく伝えてくれると助かります」
私やカイナル様が直に動くと、あの女が警戒するかもしれないからね。どこに紛れているかわからない以上、私たちは受け身の形をとるのか得策。
ならば、報告するのはリアお姉様しかいない。今回の警護の総責任者だからね。さすがに、執務室内は安全でしょ。
私のお披露目会とはいえ、他国の方々を招いた公式の場、それを荒らすことになる可能性が高いなら、きちんと報告を上げておかないといけないでしょ。すり合わせをしないといけないし。以前、噂話程度だけど、他国の高位貴族が公の場で婚約破棄を宣言して、後に廃嫡、鉱山行きになった話を聞いたから特にね。
「それとなくね……」
リアお姉様が前に見た、あの黒い笑みを浮かべている。私の意図を汲み取ってくれたみたい。格好いいな。
すでにコーマン王国が、我が国に対して問題を起こしたことは明白。その延長上だと捉えてくれたらいいの。なら、責任のすり替えは容易にできるからね。どのみち、友好国ではなくなるから気にしなくていいし、遠慮もいらない。
先に喧嘩を売ったのは、コーマン王国だからね。私たちは自国の矜持を護るだけ。
「始まる前に捕らえることができたらいいのですが、正直、今の状態だと難しいと思うので」
言っちゃあ悪いけど、かなりの高難度のミッションだと思う。
それに、あの女の信望者がどれだけの数入り込んでいるか把握できてないからね。一応、あの女の従者、侍女、少しでも関係があった者は捕縛済み。今は監視され接触は不可。
でも、それはあくまでコーマン王国の関係者のみ。他国までは干渉の手を伸ばせない。まだ、コーマン王国は友好国だし、招待した他国の方々に失礼だからね。反対に、我が国が批難されるかもしれない。そう考えると、迂闊に手を伸ばせないよね。
「確かに、現状手詰まり状態。確実におびき出さないといけないわね」
餌に食らいついてもらわないと、この作戦は不発に終わる。確実に息の根を止めないとね。
「ならば、確実にネズミが巣穴から出てくるように、より多くの藁に火を点け、煙で燻せばいいだけのことですよね、リアお姉様」
人間はそうそう理性だけじゃ生きていけないわよ。特に、常日頃から抑えこんでる人間はね……
私とカイナル様が囮になることは決定済み。いつにも増して、仲が良い所を見せつければ出てくるでしょ。そこらへんは、カイナル様が地を出してくれれば問題なし。
私もリアお姉様を真似して、黒い笑みを浮かべてみた。上手くできたかな。ずっと空気になっていた、アジル殿下とスノア王女殿下がすっごく引いてるよ。ちょっと、ショック……
「さ、さすが、幼少期からの英才教育、完全に染まってるね……」
「まぁ……それくらいじゃないと、ゴルディー公爵家の一員になれないことが、よくわかりましたわ」
アジル殿下とスノア王女殿下が、小さな声でボソボソと言い合っている。ちゃんと聞こえてるからね。でも、ちょっと嬉しい。少し落ち込んで気持ちが浮上したよ。
「確かに私はカイナル様の番ですけど、その前に、アジルお兄様とスノアお姉様の妹ですわ」
にっこりと微笑んでそう言うと、二人とも口元を押さえて俯いてしまった。
「「尊い!!」」
なにが? たまに、理解できない反応するんだよね。首を傾げてると、なぜかリアお姉様も同じ反応をしている。
カイナル様は小さな溜め息を吐くと、私の肩に額を擦り付けてきた。
私、なにかした!?
誰か、説明してくれないかな、お願い。
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