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罠を張ります
しおりを挟む「カイナルだけじゃあ、心細いよね。リアお姉様がギュッと抱き締めてあげる」
開口一番、リアお姉様が超ノリノリで言ってきた。お腹に回る腕がピクリと反応する。別に驚かないわよ、これ普通の範疇内だから。あと、これもね。
いつもと同じように、リアお姉様は両腕を横に伸ばして、満面な笑みで、さぁ腕の中に飛び込んでおいでって催促されたけど……今は飛び込めないよ。物理的にも、精神的にも。一応、ここ王宮内だからね。わかってる?
そんなこと完全無視で、カイナル様は私の頭上でリアお姉様を威嚇中。リアお姉様はそんなカイナル様の反応を楽しんでいる。その度に、力を増す両腕。アジル殿下とスノア王女殿下はポカンとして、私たちを見ているよ。両殿下のそんな表情始めて見たかな……なんか、色々ごめんなさい。胸の中で謝った。
でも、そりゃあそうなるよね。王城内では、リアお姉様はとても冷静で、知的でクール、だけど怒らせると怖いらしい。ちなみにカイナル様は、表情筋が死んでいて、別の意味で怖さがアップしているらしいよ。二人とも、孤高の狼らしわ。まぁどっちも、リアお姉様とカイナル様なんだけどね。ただ……愛した家族がいるか、いないかだけ。
「……ありがとうございます、リアお姉様。でもそれは、後でも構いませんか?」
これ以上刺激されたら、朝食をリバースしそうになるから。
「顔色悪いわよ!! ユリシアちゃん」
リアお姉様が膝を付き、私の顔を下から覗きこむ。
だから、カイナル様を刺激しないで!!
「大丈夫です、リアお姉様。ちょっとでいいので、カイナル様、腕を緩めてくれませんか」
少し涙目になりながらお願いしたよ。ほんと、苦しいんだよ。亜人族は人族よりも力が強いから。
慌ててカイナル様がお腹に回っていた腕の力を緩めてくれた。それでも、離してはくれないみたい。よかった~リバースしないですんだよ。
「この馬鹿が!! 人族は弱いこと忘れたの!!」
ホッとしていたら、頭上からいい音がした。両手が塞がっているカイナル様の頭を、リアお姉様が拳骨で殴っていたよ。
「すまない、シア……」
そんな耳を横に倒して謝られるほどのことじゃないから。それはそれで可愛いけど。
「大丈夫です。そんなにやわにできてはいません。それよりも、今はユーベラ王女の件が先です」
永遠に、リアお姉様とカイナル様のじゃれ合いが続きそうだから、強引に話を切り出して元に戻した。
「聞いてるわ。あの馬鹿王女、この王城に堂々と忍び込んできたようね。ユリシアちゃん、お披露目会を延ばす気はないんでしょ」
にっこりと微笑みながら確認された。マジ、怖い。ちょっと表現が矛盾しているけど、間違いじゃないよね。
「はい、延ばす気はありません」
「ユリシアちゃんらしいわね。それで、私になにをしてほしいの?」
久しぶりに見ました。リアお姉様の黒い笑みを。様になって、カッコいい。
「なにも。ただ、網を張ってほしいのです。ネズミ一匹通れないほどの網を会場の外に」
「つまり、ユリシアちゃんが囮になるってこと?」
「私とカイナル様がですね」
一応、私たちが主役だから。
「私も参加してるわよ」
「でも、今回の警備は、リアお姉様の担当ですよね。抜け出しても、別に不自然ではないでしょ」
警備の総責任者が抜け出して、警備の不備がないか途中で確認することは、特におかしなことじゃない。学園内で開催されたパーティーでもそうだから。
「抜け道を作っておいた方がいい?」
さすがリアお姉様、少ない問答で、私がなにをしようとしてるのか理解してくれてる。
「そうですね、念のために一箇所、気付かれないように作ってください。できれば、会場内で終わらせたいけど、万が一ってこともありますから」
本来、ユーベラ王女は頭が切れて賢い人。行動力もあって判断力もある。なかったら、当の昔に捕縛されているよ。なら、そこを突くのが一番いいと思うんだよね。
「わかったわ……」
カイナル様は私が矢面に立つことを嫌う。その点、リアお姉様はカイナル様よりも柔軟な考えができる。
「ありがとうございます、リアお姉様」
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