ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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お披露目会前日

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「緊張しているシアも、とても可愛いな。食べてしまいたいほど可愛い」

 いつもの定位置に座らされ、やたら機嫌の良いカイナル様が私の頭を頬でスリスリしている。ついでに、匂いも嗅がれている。この部屋に入ってからずっとね。

 今日は一段と甘いカイナル様だけど、これって、匂い付けも兼ねてるよね。暇さえあれば匂い付けしてくるからわかる。もう、この行為自体は慣れたけどね……できれば、場所と状況を考えて欲しかったな……ここ、王宮だよ。ましてや、私たちだけじゃない。

 そもそも、私とカイナル様が王宮にいるのは、明日、私のお披露目会が開催されるから、準備を兼ねて王宮にきていたの。一人でいくつもりだったけどね、当然のようにカイナル様も付いてきた。断る隙も与えてくれなかったよ……
 
 それで、通された部屋でこの状態。

 ましてや今、向かいのソファーには、スノア王女殿下とアジル殿下が、生暖かい目で私たちを見詰め座っている。侍女も執事も同じように生暖かい目で見てるよ……

 軽く死ねるわ……穴があったら入りたい。っていうか、身体が自由に動くなら、自分で掘って入りたいよ。

 抵抗したくても、腰をガッシリと固定されているので脱出できないし、足掻くことも無理。カイナル様の機嫌の良さに反して、私の目は段々と死んでいく……

 カイナル様は両殿下のこと、絶対小石程度にしかみていないと思う。

「仕方ないわよ、ユリシア。だって、明日、正式に婚約したことが発表されるのだから、カイナル様は嬉しくてたまらないのよ」

 スノア王女殿下が少し苦笑しながら、死んでいく私を気遣ってくれた。

「そうだよ、ユリシア。この日を迎えるまで、色々乗り越えてきたからな、特に感激しているんだろう」

 スノア王女殿下とアベル殿下の気持ちは嬉しいけど、この状況を改善してはくれない。そんな素振りを見せたら、間違いなくカイナル様に睨まれるからね。王族関係なく。

 まぁ、カイナル様の気持ちもわかるわよ。私も嬉しいし。言わないけど。

 それにしても、本当に、ほんと~に、色々あったからね。小さいものを入れたら、数えることができないくらいにあった。

 相手が大陸最強と噂される英雄様だからね……モテて当たり前。スノア王女殿下が第一会員の公式ファンクラブもあるしね。当然、非公式のファンクラブも存在するわけで、中には、過激なファンもいるみたい。そういった困った方々は、もれなくカイナル様の配下の方が話をつけてくれているらしい。その場面を見たことはないけど、聞き耳を立てていたら噂ぐらい耳に入るものよ。

 まぁそれでも、防げなかったものもあったし……

 全部が全部なくなるとは思わないけど、正式に私が第二王女としてカイナル様と婚約を発表すれば、明らかに数はグンッと減るでしょ。

 とはいえ、今さらなにをされても、カイナル様から離れる気はまったくないし、カイナル様も私を離してはくれない。それは確定事項だから。

「……それで、二人揃ってきてくれたのは、お祝いのためだけですか?」

 私がそう尋ねると、カイナル様のスリスリが止んだ。ついでに、両殿下の表情が一瞬強張った。

「やはり、シアには隠し通せないな」

 カイナル様が困ったように微笑む。

「確信はなかったのですが……なんか、この部屋に入るまで空気が前と違う感じがして。それで、なにかお披露目会の妨げになる問題でもあったのですか?」

 あったんだろうね。でも、前日に?

「ユリシアって、たまに人族とは思えないほど鋭い時があるよな」

 苦笑するアジル殿下、なかなか可愛くてカッコいい。カイナル様の次にモテるのも頷ける。

「小さい頃は、ただたんに勘が良かっただけですが、カイナル様の番になってからは鍛えられましたから、色々と」

「その色々と「ユベラーヌが姿を消しましたか?」

 カイナル様の台詞を遮り、私は両殿下に尋ねた。言葉を失っている二人を見て正解だと知る。

 王宮がこれだけピリピリしてるんだから、考えられる可能性は一つしかないよね。去る時に見せたあの目は、屈辱を受けた目で、少なくとも納得し、反省をしている目ではなかった。

「リアお姉様にあそこまで言われて、まだ行動を起こせるなんて、とてもガッツのある方ですね。とんでもない方に惚れられましたね、カイナル様」

 別に嫌味や含みがあったわけじゃないけど、カイナル様にはかなりのダメージを与えてしまった。シュンとするカイナル様を放って、私は両殿下に尋ねる。

「端的に説明を求めます」

 どうやら、簡単には先に進めないみたいね。私たちらしいといえばらしいわね。

 障害物は排除するわ、徹底的にね――


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