ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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必要不可欠な通過儀礼

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 つい一時間前まで友人だった人を、お兄様やお姉様呼びって……かなり、罰ゲームとしても悪質よね。罰ゲームじゃなくて現実だけど。

「…………精神がゴリゴリと削られていく……」

 敬語もなしにボヤいてもいいよね。周りに聞かれてもいいや。取り繕ってもバレるし。

「そのうち慣れますわ」

「早くに慣れるのも、ちょっと寂しく感じるけどな」

 両殿下は嫌になるほど超ご機嫌。

 ところで、アジル殿下、それはどういう意味かな?

「そう、怒るな」

 睨み付けると、アジル殿下に謝られた。

 すると、背後でバキッという音がした。振り返ると、侍女が持っていた魔法ポットの持ち手が取れ、魔法ポットが地面に転がっていた。

 えっ!? それって、ちょっと力を入れたら壊れるものじゃないよね!? 火事場の馬鹿力っていうよりも、身体強化ってやつかな? 怖っ!!

 当然、視線が一斉に侍女に向いたよ。

 粗相をして、焦る侍女が魔法ポットを拾うよりも早く、執事の一人が拘束していたね。内心、飛び上がるくらいビックリしたよ。あ~心臓が痛い。

「申しわけありません、ユリシア王女殿下、侍女の教育が甘かったようです」

 拘束している執事と別な執事が、私に対し深々と頭を下げた。

 執事が冷静だったからかな、少し落ち着いてきたよ。侍女は気丈にも私を睨み付けている。猿轡をされているから、なに言ってるのかはわからないけど、なんとなく理解できるよね。状況が読み取れたよ。

 あ~そういうことか。

 平民が王族になっただけでも腹立たしいのに、その私が、両殿下と気楽にお喋りして、アジル殿下を謝らせたことが気に食わなかったってことね。まぁ普通の反応だよ。ここで働く人たちの大半は貴族、それも王族に直接接するのは伯爵以上。頭を下げられて当然の立場なのに、自分が給仕し頭を下げるんだから腹が立つよね。嫌になるよね~。

 でもそれが、侍女として許されるかどうかは、また別の問題。

 状況を把握できたのはいいけど、なんか、試されてる気がするのは気のせい。ここはのってあげるのが正解かな。両殿下もなにも言わないし。皆が私の一答一足を見ている。観察、嫌、値踏みされてるわね。

 仕方ない。軽く深呼吸をしてから、私は拘束されている侍女に近付き口を開いた。

「……そのようですね。貴族である貴女が、元平民である私を認めないのは自由ですわ。特に咎めたりしません。怒りや憎しみ、侮蔑の感情を持っていても構いませんよ。でも、王族に仕える者なら、それを表には決して出してはならない。私でも知っていることですよ。以後、気を付けなさい」

 にっこりと微笑むと、侍女は顔を真っ赤にして俯いた。まぁそのあとは、近衛騎士と拘束していた執事と一緒に退場していったよ。

 退場したあと、恐る恐る振り返ると、両殿下もにっこりと笑っていた。

 このテスト、どうやら合格したみたいね。よかった~。平均点なのか高得点なのかは、少し知りたいけどね。この茶番、必要不可欠な通過儀礼だったみたい。仕掛けられていたのか、偶々起きた出来事を利用したのかはわかんないけど、初日からどっと疲れたよ。

 早くベッドにダイブしたい……カイナル様の耳と尻尾をモフモフしたいよ……そろそろ見せてくれないかな、獣体。


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