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帰りの馬車の中で
しおりを挟む私の言い方が、あまりにもクラスメートの友人さんには気に入らなかったみたいね、去り際、小さな声で「平民の癖に生意気な」と言う呟きと、舌打ちがセットで聞こえてきたよ。
いやはや、仮にも隣国とはいえ、王女殿下の使者がこれとはね……なかなかゲスな面を持っているようね。まぁそうでなきゃ、あのお花見畑一号と二号を作り出したりはしないか。それに頭も切れるようだし。カイナル様と一緒に、一王女殿下がスタンピードをしり退けるぐらいにはね。
「平民が」って言う台詞は、何度も何度も言われ聞き慣れているから、今さら腹は立ちはしないけど、いい気持ちはしない。だから、顔を顰める代わりに、ニコッと微笑んでやった。
聞こえているわよ――
って、口にしないかわりにね。
一瞬、バチバチ状態になったけど、無事にカフェを脱出。迎えにきていた馬車に乗って帰りながら、ふと……外の景色を見ながら溜め息混じりに呟く。
「どんなに身綺麗にして、勉強やマナーを身につけても、身分だけはどうしようもできないよね…………所詮は、猿真似か……」
カイナル様の件で揉める原因の一つは、私の身分が低いから。
平民風情がカイナル様と――
何度も言われ続けた台詞。
言われる度に、陰で囁かれる度に、私の心は鋭い傷ができる。どうしようもない、ジレンマで苦しくなる。
でも、猿真似でも猿なりにやれることはやるつもり。それが私の意地だから。いや、違うわね。それしかできないんだよ。
もう……平民には見えない自分。だけど、貴族にはなれない自分。中途半端な自分が唯一できるのは、貴族らしい貴族になること。でも、自分を偽らない。自分を偽ったら、本当の意味で猿真似になるからね。
そんな私を、カイナル様は優しく見守ってくれてる。疲れたら、私がお願いしなくても頭を撫でてくれるの。クンクンと嗅がれるオプション付きだけどね。でもね、心がホワッと温かくなるの。心の傷がスーと消えていくんだよ、不思議だよね。
これが、番の効力かもしれないわね。
なら、どんな手を使っても護らないと――
あの女の手紙には、平民の私では、カイナル様の威光に潰されてしまうから助けてあげる、なんて自分勝手の都合のいいことをほざいていたけど、それを決めるのはあの女じゃない。
この私よ!!
ほんと、余計なお世話。
「……私はキーキーと鳴くだけの猿じゃないわよ」
猿を舐めるなよ!!
私は帰りの馬車の中で一人ニヤリと笑った。とりあえずこの手紙、カイナル様に見せないとね。
私が身分のことでボヤいていた頃、王宮内には一つの案が表面化し実現しようと動き出していたの。
王族とゴルディー公爵家の間でね――
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