ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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さぁ、早くきなさいよ

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 馬車は予想していた通り学園には向かわず、反対の道を進んでいく。速度はいつもより速くて乱暴だ。御者の才能ないわ。

 それにしても、馬車ごと誘拐するとはね……大胆な性格してるわね。

「……御者は大丈夫かな?」

「おそらく、大丈夫ですよ。御者とはいえ、それなりの訓練を受けていますから。無理矢理、引きずり降ろされただけです。せいぜい、打撲程度でしょう」

 リアは優しい笑顔で答えてくれた。だったら、いいけど。すべてが終わったら、謝りにいこう。それで、

「よかった……それでリア、私たち、どこに運ばれると思う?」

 小声で訊いてみた。

「おそらく、この方角ですと……昔、ラメール侯爵家が所有していた屋敷があったはず」

「えっ!? 王都内に?」

 思わず、声が大きな声が出そうになったよ。別荘なら、観光地や景色が綺麗な場所でしょ。もしかして、訳あり?

「先代のラメール侯爵が、かなりの女好きで恋人を住まわせていたとか」

 あ~やっぱり訳ありか。ありがちだね。だとしたら、

「先代のラメール侯爵は人族だったの?」

 亜人族ならそうそう浮気はしないよね。

「いえ、亜人族ですよ。生涯、番に巡り会うことができなくて、番を持たなかったそうです。持たなくても、あっちこっちに種をまいたそうなのですよ。うさぎ族でしたから、特に酷かったと聞いています」

 うさぎ族ね……確か、うさぎって一年中発情してるって聞いたことがある。あ~だから、愛人じゃなくて恋人だったんだ。納得納得。

「見えてきたわ~。どうして、ラメール侯爵が王族のお花畑を引き受けたのか」

 あっちこっちにいる恋人に屋敷をプレゼントしてたら、そりゃあ、財政難になるよね。それも、飢饉とかじゃないから誰にも相談できないし、援助も受けられない。

「まぁ大半は先代の死後、すぐに売却されましたが、それでも、かなり売値は下がりますからね。それに居座り続ける恋人や庶子にも金銭を渡し、立ち退いてもらう必要もありますし」

 屋敷があればあるだけ恋人が住んでいたってことでしょ。赤字額がますます増えていくね……そもそも借金してそうだし、だとしたら利子も凄そう。そんな時に、王族のお花畑の降嫁話。背に腹は代えられないから、多少問題があっても飛び付くよね。

「王族、怖っ」

「確かに、王族は怖いですけど、貴族も似たようなことをしてますからね」

「平民の間でも、聞いたことはあったけど、そこまでエグくはなかったわよ。多少の慈悲はあったし」

 最悪、教会に放り込んだって、お客さんから聞いたことがある。

「貴族は常に騙し合いばかりしてますからね。特に、お茶会や社交シーズンは」

「出たくないなぁ……そういうの苦手だよ」

「ならば、カイナル様にお願いしたらどうです? 必要な社交以外しないと」

 カイナル様か……

「……そうだね。仲直りできたら、お願いしてみるよ。まだまだ先の話だけど」

「それがよろしいです。――ユリシア様、馬車の速度が落ちました。そろそろのようです」

 後半、リアの顔から笑みが消えた。口調も厳しくて、緊張しているようだった。

 リアの言葉通り、直後に馬車が停止する。乱暴にドアが開いた。おそらく、お花畑親子に雇われたんだろう、ゴロツキが私たちを見て嫌な笑みを浮かべた。身を寄せ合って話していたから、私たちが恐怖でいっぱいだと濁った目には映ったようね、全く違うけど。

 だって、私を傷付けることは不可能だし。

 リアはゴルティー公爵家一番の剣の使い手。

 それに私は、義両親に護られてる。カイナル様にもね。

 私が捕まったと報せを受けたら、絶対、あのお花畑親子はここに嬉々としてやってくる。まぁ、それまでは怯えた少女を演じますよ。

 さぁ、早くきなさいよ、お花畑さんたち。


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