ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
31 / 73

引っ越しました

しおりを挟む

 帰りの馬車では襲われなかった。

 噂を聞いて、数時間後に決行は、さすがに無理があったみたいね。となると、あと二日。計四回、まいた餌に喰らいついてくれるかな。できれば、喰らいついてほしいけど。

 そんなことを考えながら帰ってくると、いつも玄関の扉の前に待っているカイナル様の姿が見えなかった。今日は遅番だと聞いていないから、屋敷にはいるはずなんだけどね……

「完全に、怒らせたみたい。それとも、飽きられたのかな。だとしても、私からは絶対に謝らないし、折れないから」

 後半は、私なりのカイナル様への宣戦布告。

 ここに連れられてきて七年目になるけど、その中で一番の大喧嘩。私も、変に意固地になっているってわかってはいるけど、素直になれない。

 昨晩は、それでも……勇気を出して少しだけ、素直に自分の気持ちを口にしてみたけど、大撃沈。まぁでも、カイナル様の本音を改めて聞けてよかった。私を護りたいという気持ちは素直に嬉しいよ。大事な人に大事にされてるって、幸せに感じるよ。でもそのために、籠の鳥になれって言われるのは受け入れられないの、どうしても。それは間違ってると思うから。

 玄関にいないってことは、カイナル様自身、意見を変える気はないってことだよね。今までどんなに忙しくても、疲れていても迎えにきてくれてたもの。

 そして、笑って出迎えてくれて抱えてくれた。

 頭では理解していても、多少の希望をもって、出迎えのために控えている執事に訊いてみた。

「今日、カイナル様は急に仕事が入ったのかしら?」

「いいえ。屋敷にて実務におわれております」

 斜め十五度くらい頭を下げてから執事は答えた。

「そう、ありがとう」

 私はそう答えると屋敷に入る。

 なんか……色褪せて見えるわね。そうか……カイナル様がいないだけで、こうも見え方が変わるんだ。

「大丈夫ですか? ユリシア様」

 急に立ち止まった私を心配して、リアは床に跪き、顔を覗き込み尋ねる。私はにっこりと微笑んでから答えた。

「大丈夫よ。その代わり、リアにお願いがあるの。客室を一つ用意してくれないかな。できれば、私の部屋にある日用品も一緒に持ってきて欲しいの」

「えっ!? 引っ越すんですか!?」

 リナが驚いたように尋ねる。

「ええ、しばらく引っ越した方がお互いのためにいいと思うから」

「今回の件に片が付いたら、自室に戻るんですよね?」

 そう訊かれて、私は小さく首を横に振った。

「確かに、あの女の件が引き金だけど、根本的な問題は別にあるの」

 沈んだ顔でそう力なく答えたら、リアはそれ以上なにも言わずに「畏まりました」と答え、準備のためにその場を離れた。私はエントランスで一人待っているのもなんなので、図書室に向かった。読みたい本もあったけど、カイナル様の執務室から一番離れた場所にあるから。自然と、足はカイナル様がいない方へと向いてしまう。嫌いなわけじゃないのに、ほんと……色々難しいね。ふと、思う。

 部屋を変えるって、軽率なことをしたかな? 

 噂好きな侍女たちには、もってこいのネタになるわね。新人の侍女の中には、私のことをうとましく思っている人もいるからね。彼女たちに隙を作っちゃったか……でもいいや。そんなことを考えていたら、人の気配がした。

「ユリシア様、用意ができました」

 部屋の用意ができたので、リアが私を呼びにきてくれた。

「ありがとう」

 私は読んでいた本を棚に戻し、リアの後ろに付いて図書室を出た。

 客室に向かう途中、向いの廊下からカイナル様の執務室が見えた。カイナル様は忙しく仕事をしているようだった。確かに、屋敷にはいたわね。

「ユリシア様、後で、あのバ、いえ、カイナル様をのして起きます」

 リアの心遣いに笑みが溢れた。

「ありがとう。でもそれを実行したら、リアが辞めさせられるから嫌かな。リアにはずっと、この屋敷で働いてほしいから」

 そう答えると、リアが嬉しそうに微笑んだ。

「わかりました。カイナル様には手を出しません」

「ありがとう、リナ」

 そんなことを話していると、客室に到着した。リナがドアを開けると、完璧までに、私の部屋の様子が再現されていた。さすが、リナ。武術にも長けて、侍女の仕事も完璧なんて、超ハイスペックだわ。

 但し、カイナル様が私に贈ったプレゼントの品々は、服と数点のアクセサリー以外は元の部屋に置いたままのよう。持ってくるように言おうか悩んだけど止めた。一応、盗まれないように、リナにはそれとなく示唆しておいたわ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...