ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
27 / 73

初めての大喧嘩

しおりを挟む

「三日でいいんだ……学園を休むことができないか?」

 馬車から降りた途端抱き締められ、そのまま部屋に運ばれた。よほど心配したんだろう、小刻みに身体が震えている。私はその背中をポンポンと叩く。

 しばらくして、落ち着いたカイナル様が言った台詞がこれ。

 つまり、ラメール侯爵夫妻へ突き付けた期日まで休めって言ってるの。私の身の安全のために。その気持ちは嬉しいよ。だけどね、私の答えは始めから決まっているの。すべてを聞いた後もね。

「……休むことはできません」

 あ~目が段々光が失い始めたわ。

「なぜだ? 俺はシアのことが心配なんだ。大丈夫、あの花畑たちは俺が排除するから、シアは大人しく待っているんだ、いいな」

 まだ声を荒らげてるうちはいいんだよね。でも、病んでる面が出でくると……静かな声になるんだよね。

「待つだけは嫌です。伯爵令嬢の件は私が気付かないうちにすませていましたが、今回は違います。ラメール侯爵令嬢様は、この私に正々堂々とカイナル様を奪うと宣言しました」

 そこまでは言ってないけど、似た台詞は言ってたよね。

「だから、なに?」

 さらに進むよ、病んでる状態が。

「カイナル様は、私がそこまで言われて、腹を立たないとは思わないのですか?」

 少しだけ、カイナル様の瞳に光が戻る。だけどすぐに、光は消えた。

「シアは、そんなことを考えなくていいよ。君は俺だけのことを考えていればいいんだ。友人を持つことは許そう。シアの味方になるから。でも、それ以外の者を想うのは許さない。それが、苛立ちや嫌悪だと――」

「離してください。私に触らないで!!」

 カッとした私は、カイナル様の台詞を最期まで聞かずに彼を突き飛ばした。といっても、その体格差でほとんど突き飛ばせていないけど。でも、彼の腕からは逃げ出すことはできた。

「シア」

 カイナル様が手を伸ばしてくる、私はその手を払い除け、彼から距離をとった。

 その行為がさらに、地雷を踏んだってわかってる。デスゲームのゴールに何駒も駒を進めたことも、だけど、私にも地雷があるの。カイナル様は私の地雷を踏んだ。

「カイナル様がほしいのは番じゃない。自分の言うことを聞くペットでしょ。カイナル様なんて大嫌い!!」

 そう叫ぶと、私は部屋を飛び出した。

 飛び出したのはいいけど、いくところなんてないんだよな……数年前は月一回程度で家族と会っていたけど、次第に会わないようになっていったし。帰りたいな……でも、帰れない。迷惑になるだけだから。平民と口にしていても、私の姿を見て平民という者はいない。それほど変わってしまった。髪の毛はサラサラで、嘗て豆やひび割れだらけの荒れた手は白いスベスベに。

 平民でもなく貴族でもない、中途半端なのが、今の私――

 私を変えたのはカイナル様だ。私もそれを受け入れて変わることに決めた。決めざるえなかったけど、受け入れたのに……姿形すがたかたちだけでなく、内面も。

 どうしようかな……

 陽が暮れ出した庭の木の下にポツンと座っていると、いきなり両脇の下に手を突っ込まれ、抱き上げられた。

「こんなところでどうしたんだい? ユリシア。カイナルと喧嘩でもしたのか?」

 なっ、なんと、私を抱き上げていたのは義お父様だった。そして、その隣には義お母様が。全然気付かなかったよ。

「あらあら、こんなに冷えてしまって、お母様とお風呂に入りましょう」

 あれよあれよという間に、私は義お父様に抱っこされ義お母様と一緒に連れていかれてしまった。途中、カイナル様がなにか言いたそうに、私に手を伸ばしてきたけど、無視したら、その場に崩れ落ちていた。

 義お父様も義お母様もとても優しい。私を本当の娘のように可愛がってくれる。時には過剰なほどに。

 流されるまま、義お母様と一緒にお風呂に入っていると、包み込むような優しい笑顔で提案してくれた。

「いつまでも、私たちの傍にいていいからね、ユリシアちゃん」

 カイナル様の所に戻らなくてすむのはありがたいけど……

「訊かないのですか? 喧嘩の理由」

 訊きたそうにもしていないので、私から切り出してしまった。誰かに聞いてもらいたいからだと思う。

「悪いのはカイナルでしょ。それに、喧嘩の原因になったのはあの馬鹿親子でしょ!! ほんと、親子二代で!!」

 当時のことを色々思い出したのかな、もの凄い剣幕で怒り出す義お母様。お湯が勢いよくはねてるよ。その姿を見てると、羨ましくなった。

「……義お母様はいいですね、素直に怒れて。私は否定されました。怒ることを、そんな感情を持つことも、駄目だって言われました」

 だから、つい吐き出してしまった。

「どういうこと?」

 真正面から訊かれて、私は身体の向きを変える。

「自分だけ見ていろって。ラメール侯爵令嬢様のことに対して怒る必要はないと言われました」

「そう……」

「ラメール侯爵令嬢様が、始めて私に喧嘩を売った時、私はカイナル様が私の番だと、運命だと言いました。だけど、それでも、彼女は私を批判し続けた。再度、喧嘩を売られたのです。なら、私は買いたい。怒りたい。伯爵令嬢の時は気付かないうちに終わっていたけど、今回は違います。この大陸で最強と言われているカイナル様の番として、私はこの手で完膚なきまでに叩きのめして勝ちたいのです。私が抱くこの感情は番が持ってはいけないのでしょうか? カイナル様は認めてくれません。だとしても――」

 そこまで言った時、義お母様が私の両手を強く掴んだ。

「誰がなんと言おうとも、私が応援するわ!! ユリシアちゃん」

 最強の味方が増えました。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

訳ありな家庭教師と公爵の執着

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。 ※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷 さらりと読んで下さい。 ※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)から、HOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。 ※只今、不定期更新となります。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

前世でこっぴどく振られた相手に、今世ではなぜか求婚されています ~番とか、急にそんなこと言われても困るんですが~

小倉みち
恋愛
 小さな村に住む16歳の少女、エミリーの前世は、なんともしがないものであった。  公爵令嬢であった彼女は、幼年期、1人の男の子に恋をする。  相手は、同じく公爵家の御子息。  原始の龍の血が流れる、神話時代から続く古い家柄出身の彼。  その血が最も色濃く出た彼は、誰よりも美しかった。  そんな彼に一目ぼれをした彼女は、自分の家の力を最大限に利用して、彼に猛アタックする。  しかし彼はそんな彼女を嫌い、邪険に扱う。 「君と付き合うつもりはない」 「もう二度と、近づかないでくれ」 「鬱陶しい」  そこまで言われてなお、彼女は盲目だった。  ほかの男性には目もくれず、彼だけを追いかけ続けた。  しかし、その恋心を利用した悪しき連中によって、彼女は命を落とすこととなる。  死に際、彼女は我に返った。  どうして、そこまであの人のことが好きだったんだろうか。  そうして生まれ変わった今、恋に盲目過ぎた前世を深く反省し、堅実に生きようと決意する彼女。  そんな彼女の元に、突然「彼」が現れ、こう言った。 「君は俺の番なんだ。俺と共に来てくれ」  ……いやあの、急にそんなこと言われても困ります。

処理中です...