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カイナル様の番は私です
しおりを挟む手を引こうって思っていたのだけど、やっぱりというか……なし崩し的に雑用係を継続することになった。とはいえ、正式な生徒会役員ではなく、準生徒会役員って感じかな。
意外にも、私が手を引くのを止めた一人が副会長だったんだから、驚きだよね。
基本的に、私と副会長は性格合わないから、ちょっとした小競り合いはあるけど、概ね平和だったんだよね……あの女がくるまでは。
ことの発端は、季節外れの転校生。なかなかの問題児らしい。
その問題っていうのが、病的に思い込みが激しいの。その対象者がカイナル様。カイナル様の番は自分だと、ずっとあちこちで公言していたんだって。ゴルティー公爵家から散々抗議されたのに止めなかったらしい。
学年は一個上だから別にふ~んとしか思っていなかった。カイナル様はモテるしね。ファンクラブあるし。いちいち、気にしてたらきりがないよ。だから、事前に、アジル殿下とスノア王女殿下に転校生のことを聞いた時も、特に気にもとめていなかった。
だって、まさか、人族じゃなくて、亜人族が直接番である私にちょっかいを出してくるとは思わないじゃない。公言していたとしても、相手に番ができたと知ったら身を引くでしょ。気持ちは別としてもね。番がどういうものか、一番理解してると普通考えるでしょ。
「あの~仕事の邪魔をしないでくれますか?」
この注意何回目かな? イラッとするんだけど。
「あら、邪魔なのは貴女でしょ。カイナル様の番である貴女が雑用しかさせてもらえないなんて、さすが、元平民」
頭ごなしに言ってくるこの女は、アジル殿下とスノア王女殿下の従姉妹、侯爵家に国王陛下の妹が嫁いだの。その従姉妹が、先週まで隣国に留学していたんだって。原因はわかるよね。
そして、困ったことに元生徒役員。一か月ほどだけだったらしいけど。戻ってきたら、当然のように生徒会室に顔を出している。仕事はしていないけどね。っていうか、お茶飲んでるのなら仕事しろ。反省まったくしてないじゃない。アジル殿下もスノア王女殿下も席を外しているから、よけいに絡んでくるわ。マジ、ウザい。
「元ではありません。今も平民ですよ、ラメール侯爵令嬢様」
ちゃんと訂正しないとね。偽証罪になるわ。それが返って、ラメール侯爵令嬢様を苛立たせたみたい。
「それは失礼したわ。まさか、こんな小さな平民の子供が、レシーナの日に参加なさるとは、おませさんね。でも確か……参加年齢は成人してからじゃなかったかしら?」
つまり、無効だって言いたいのかな。それに、小さな平民の子供? 一歳しかかわらないじゃない。
まぁいいわ。これまで、誰にも訊かれなかったけど、疑問に思っている人はいるよね。ラメール侯爵令嬢様以外にも。聞き耳立てなくても聞こえるでしょ。
「別に参加はしていません。ご存知だと思いますが、私の実家は中央区で食堂を生業としています。レシーナの日は店を休んで、私一人が店の大掃除をしていました。子供だから大丈夫だと。なのに、まさかカイナル様に求婚されるとは思いもしませんでした」
にっこりと笑みを浮かべながら答えた。その後、拉致監禁されたことは、カイナル様の名誉のために言わないけど。
「そ、そうなの、そんな偶然があるのね」
顔引きつってるわよ。
「人族にはわかりませんが、亜人族の方々は番を得ることは奇跡であり、夢だと聞きましたわ。ならば、偶然ではなく運命なのではありませんか」
すっごく良い笑顔で微笑んであげた。
「運命!! 私は認めませんわ!! カイナル様の番は私なのだから!!」
仮にも侯爵令嬢がヒステリーを起こすなんて、平民相手に滑稽ね。
「御冗談を。カイナル様の番は私ですよ。すでにピアスも頂いておりますし、これ以上の戯言は迷惑ですので止めてくださいね、ラメール侯爵令嬢様」
左耳を見せながらそう否定すると、ラメール侯爵令嬢様は聞き取れない奇声を発して出ていった。
「ふぅ~これで、仕事が再開できますわ」
やれやれと思いながら仕事を再開しようとしたら、アジル殿下とスノア王女殿下が戻ってきた。
「さっき、もの凄い形相のシルクとすれ違ったのだけど……あ~なんとなく理由がわかったわ」
スノア王女殿下が苦笑いをしながら察してくれた。
「あれはもう病気だな……」
アジル殿下の疲れた台詞に私は大きく頷いたよ。
亜人族から見たら、まず考えられない異常行動らしいから。そうだよね、番を一番って考えている種族なのに、その大事な番を他者が否定するなんてありえないわ。本当に亜人族なの。
「ユリシア嬢、しばらく生徒会の仕事を休んだ方がいいんじゃないか?」
生徒会長が私を心配して、そんな提案をしてくれた。
「……生徒会長の気持ちは嬉しいですが、なんか、負けた気がして嫌です。あと、ラメール侯爵令嬢様を出禁にしてください」
私がカイナル様の番だと胸を張りたいの。
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