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病むほど大事にされています
しおりを挟む昼休みの生徒会室。
私と両殿下は軽食を持って生徒会室にきていた。
私ができるのは、資料の仕分けと束ねること。あとは連絡係くらいかな。これぞ、ザ、雑業。
昨夜、カイナル様に言われたことを、昼ご飯を食べているうちに、生徒会長に言うことにした。なので、生徒会長の机の前に立つ。なぜか、生徒会長は息をゴクリと飲んだ。緊張してる? 二つも違う下級生に? これは、副会長にやったことが関係してるよね……絶対。
「あ~そうなると思っていたから、大丈夫だよ」
生徒会長に放課後は手伝えないことを告げると、あっさりと認めてくれたよ。
「一時間も認めてくれなかったのね」
スノア王女殿下の隣の椅子に座ろうとしたら、そう声をかけてきた。
「私のことだから、皆が作業していると抜け出せないからだって。陽が暮れる前に帰ってきてほしいって言われました」
過保護ですよね~って感じで困った風に話したら、スノア王女殿下に真顔で言われた。
「それ、当然ですわ。自分の大切な番が真っ暗な夜道を帰ってくるなんて耐えれるわけないでしょ。恐ろしいこと言わないで」
なにを想像したのかわかんないけど、真っ青な顔でスノア王女殿下は怒り出す。
「いや……馬車に乗って帰るし」
安全でしょ。平民が使う馬車じゃなくて、公爵家の馬車なんだから。
「襲われるかもしれないでしょ」
「平民の乗る乗り合い馬車ならともかく、公爵家の馬車ですよ、誰も襲わないって」
私がそう言うと、スノア王女殿下は呆れたような、残念なこを見るような目で私を見ていた。それは、アベル殿下も生徒会長も同じだった。会話に参加してなくても、広い部屋じゃないんだからバッチリ聞こえるよね。
「……それは違いますわ、ユリシア。公爵家の馬車だから襲うこともあるのです。厳密に言えば、カイナル様の番が乗っている馬車を敢えて狙うことも十分考えられますわ」
「私が乗っている馬車を……」
なぜとは訊かなかった。なんとなくだけど、想像ができたから。
「そうですわ。今や、カイナル様の名声は大陸中に轟いてますわ。そのカイナル様を手に入れることができるかもしれない。もしくは、排除できるかもしれない。そう考える者が内外問わずいます。これまでのカイナル様は、一切の隙はありませんでした。しかし、今は違います。ユリシア、貴女という弱みを持ってしまったのです」
スノア王女殿下の言葉が、私の心に深く突き刺さる。考えまいとしていたけど、そうだよね。カイナル様の強さは大陸中に轟いている。
番である私はカイナル様の弱点だ。
言葉を失う私に、アジル殿下が口を挟む。
「確かに番は、俺たち亜人族にとって弱点だよ。だからといって、俺たちは番を否定しないし、弱点だから不要だとは思わない。だって、番が自分の傍にいてくれるだけで、とても幸せで満ち足りているのだから。その幸せは、なにを犠牲にしても手放せないほど愛しいんだよ」
「私たちにはまだいないですが……番を夢見ることはただありますわ」
スノア王女殿下が柔らかい表情で言う。溶けてるね、可愛い。
うん、アジル殿下とスノア王女殿下の言いたいことはよくわかるよ。番が亜人族にとって、とても大事で大切な存在だってことが。
「……俺は人族だからよくわからないが、そもそも、ユリシア嬢を傷付けられる者はいないんじゃないか」
生徒会長が話に加わった。その言葉を聞いて、全員が納得する。
「「「確かに」」」
「それに、あんな魔法具を持たせているんだから、ユリシア嬢が知らないだけで、色々付与されていると思うけど」
呆れた口調で生徒会長が言う。
まさにその通りです。色々付いてます。この会話も聞かれてます。
「……もし馬車が襲われて誘拐されても、無傷で直ぐに発見される気がします」
あのカイナル様が許すわけないしね。大事にされ過ぎてるから、病むほどに。
私の言葉に皆、声に出さずに納得した。
なんか言ってよ。複雑だわ。まぁ、私が彼らと同じ立場だったら、同じような反応をしてたけど。藪を突いて、蛇ではなくドラゴンが出てきそうだからね。
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