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久し振りにキレました
しおりを挟むあの一件があってから、黒板に私の悪口を書かれることは徐々に少なくなっていった。スノア王女殿下もだけど、アジル殿下も一緒に消してくれたことが大きいと思う。あと、私と一緒に行動してくれていることもね。
「ユリシア、行きますよ」
「ユリシア嬢、行こうか」
二人はわかっている。自分たちの存在が抑止力なんだって。私を護るのと同時に、黒板に悪口を書いた者を止めるために。それが、護ることに繋がるから。私の我儘を聞いてくれた二人に、私はなにを返せば良いんだろうと悩む。深読みすれば、カイナル様の根回しかもしれないけどね。それでも、優しいなと私は思うの。
だけどね、アジル殿下はスノア王女殿下よりも少し距離をおかれているんだよね、物理的に。教室でスノア王女殿下は私の隣に座るのに、アベル殿下は椅子一つ分あけて座っている。それが、自分以外の番に対する距離感なのだと学んだ。
「はい、待ってください、アジル殿下、スノア王女殿下」
私は二人よりかなり小さいから、早歩きでやっと二人に追いつくの。そのせいで、いつも私に合わせてもらって申し訳ないな。
「そんなに急がなくて、大丈夫だよ」
アジル殿下が優しい言葉をかけてくれた。
遠くで悲鳴、それとも歓声かな、聞こえるわ。カイナル様にもファンクラブがあるって伯爵令嬢の件の時聞いたけど、アジル殿下にもあるらしい。まぁ、優しくて笑顔が爽やかで顔がイケメンで王子様なら、ないほうがおかしいわ。
「ユリシア、どうしましたの? 難しい顔をして?」
スノア王女殿下が頬をぐにぐにしながら尋ねる。そんなに難しい顔をしてたかな?
「……ファンクラブの扱いには注意がいるなっと思って」
そう答えたら、今度はスノア王女殿下に抱き締められた。む、胸が!? 本当に十三歳か!?
「私が護りますわ!!」
「あんな暴挙は、僕は許さない!! 安心して、そのことは自ら徹底させるから」
徹底って、なにをするつもり!? あっでも、躾けてもらえれば助かるかな。
「ありがとうございます。スノア王女殿下、アジル殿下……それで、なぜ、私たちが生徒会室に?」
スノア王女殿下の胸から脱出した私は、二人に尋ねた。
「生徒会の勧誘ですわ」
スノア王女殿下が教えてくれた。
「生徒会?」
この世界でもあるんだ生徒会。学校があるから、まぁあって当然だよね。
「成績優秀者が、自動的に生徒会入りをするのが習わしなんだよ」
アジル殿下が補足してくれた。
「……拒否権は?」
そう尋ねたら驚かれたよ。
「生徒会は選ばれた生徒しか入れないんだ!! 断るなんてありえない」
アジル殿下の力説に私は苦笑い。
「そ、そうなんですね……」
あ~名誉職ね。というか、別名社畜養成所。
王宮に務めたい高官志望や、王宮騎士、王宮魔術師を目指す人には有利になるわね。
学園は一つの国家みたいなものだから、王太子殿下やスノア王女殿下にとっては、人の上に立って動かす場としては最適な場所になるはず。私は関係ないけど。だって、私が目指す一級司書官は特殊だからね、そもそも、そんなに人気がないんだよ。暗くて、陰キャが極めた職業って思われてるからね。確かに、派手さはまったくないからしょうがないんだけど。
そんなことを考えているうちに、生徒会室の扉の前に到着した。
代表して、アジル殿下が扉をノックする。
すると室内から「どうぞ」と言う声がしたのと同時に扉が開いた。私たちは中へと招かれ入る。
開けてくれた人と目が合った。招かれた感じじゃないわね。明らかに不愉快そうだもの。アジル殿下やスノア王女殿下には見せてない。一番最後に入ってきた私にだけ見せた目だった。
私は気付かぬ振りをして、王族二人と並んでソファーに座る。その行為が、さらに癪に障ったよう。私は無視した。
「僕は、現生徒会長を勤めているゲルツ・ダクリスだ。学年は三年。さて、君たちをここに呼んだのは、君たちに生徒会に入って欲しいからだ」
やっぱり、二人の言う通り生徒会の勧誘だった。めんどくさいな……どうやって断ろうと考えていたら、助け舟が入った。私に敵意を向けている男子学生だった。ネクタイの色は緑、三年ね。
「僕は反対だ!! ユリシア嬢の生徒会入部は認めない!!」
場が凍り付くってこういうことをいうんだね。その場にいる全員が静止画のように止まったんだもの。
「黙れ!! お前は、この学園の伝統を破るきか!?」
アジル殿下とスノア王女殿下が抗議する前に、生徒会会長が怒鳴った。
「相応しくない者を入れることによって、穢されるのなら、始めから入れないほうがいい!!」
完全に嫌われてるわね。初対面なのに。なんか、腹が立ってきたわね。理由もなく、理不尽な言い方、自分が正義だと信じて押し付ける。私が一番嫌いなやつだわ。
「理由をお聞かせいただけますか? 貴方様と私は面識がなかったと思いますが……それとも、私が忘れているだけですか? 人の顔を覚える自信はあるのですが……まさかと思いますが、貴方は一度も会ったことのない者を否定なさるのですか? そうできるほどに優秀で地位のある方だとは、申し訳ありません。無知で。そのような優秀で地位のある方が、流れる噂を鵜呑みにして、自分独自の正義を振り回されているはずないでしょう。とはいえ、生徒会は団結して学園の運営をする場所、ならば、場を乱す私はいないほうがよろしいでしょう。私の方から辞退させてもらいます」
私は一気にそう告げると、にっこりと笑って扉に手を添える。出ようとした時だ。
「ここは、必死で自分の夢や生きる道を探して掴み取ろうとしている者たちがいる所だ!! 番に選ばれて安穏とできるやつがいるべき場所じゃない!!」
そっちか。なんて視野が狭い見方しかできないやつ。私は振り返ると静かに言い放った。
「私が道楽でこの学園に入学したと……確かにカイナル様の手助けはありましたが、平民である私が国内最高の教育機関に、ただの道楽で、それも学園二位の成績で入学したと仰りたいのですか。私には幼い頃からの夢があります。一級司書官になると夢がね。私のことを否定するのは許しましょう。でも、何も知らない赤の他人が、私の夢を否定するな!! それだけは許さない!! では、失礼しました」
頭を下げ退出した私は、教室に戻ると頭を抱えて蹲る。最後の方は完全に恫喝したし。久し振りにキレたわ。やっちゃった。でも、後悔はしてないかな。だって、私にも譲れないものがあるから、仕方ないよね。もうやっちゃったことだし、気にするのは止めよう。うん、前向きに生きなきゃ。
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