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絡まれたあと、待っていたのは尋問でした
しおりを挟む昼休み、チャイムと同時にスノア王女殿下とアジル殿下が私の前にきて、そのまま連行された。連れて行かれたのは、高位貴族が使うサロン。どうやら、貸し切みたい。さすが王族。このまま昼ご飯ってならないよね……たぶん。
「ユリシア!? なぜ、授業を遅刻しましたの!?」
入室した途端、スノア王女殿下の尋問が始まった。隠してもすぐにバレるので、ここは素直に答える。
「忘れ物を取りに教室に戻ったら、人族に絡まれ、暴力を振るわれそうにました」
その言葉に、二人とも青くなる。亜人族からしたら考えられない暴挙だよね。初日に、スノア王女殿下が絡んできたけど、私が番であることを否定するようなことは口にはしなかった。でも、彼女たちはした。
「誰に!? 怪我は!? 大丈夫ですの!?」
「訊く前に、保健室にいった方がいいんじゃないか?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、普通に授業を受けてるんだから大丈夫ですよ」
今、保健室は嫌かな……まだいると思うから。
「そう……ならいいけど、誰に絡まれましたの!?」
まだ、尋問は続くみたいね。明日になれば、学園内に知れ渡ると思うけど、それが真実とは限らない。王族としては事実を把握しておきたいのね。
「怪我はしてませんので、大丈夫です。名前は忘れましたが、同じクラスの伯爵令嬢様。あとは、その取り巻き三人ですね」
さすがに、王族の前で金魚のフンとは言えないわね。
「あ~あの子ね。カイナル様の熱烈ファンというか信者? ストーカー? ……とにかく、自分が、カイナル様の番だと盲信して風聴していましたわ。何度か、コンディー公爵家から抗議されたと聞いております。ですが、なまじ亜人族の血が四分の一入っているものですから、信用なさる方もそれなりにいましたわね。ほとんどが、人族でしたけど」
なるほど。そう盲信していたのに、私がひょっこり横から掠め取ったと思っていたのかな? それとも、惑わす悪女とも思った? どっちにせよ、現実を知って暴走したのね。
「ここまで、匂い付けをしているのに、なぜ、ユリシア嬢を害しようと思ったのか……わずかでも、亜人族の血が入っているのに」
アジル殿下は心底わからないようだ。
「……人族の血が強かっただけです。そして、その思考も人族だった。ただそれだけですわ」
確かに、亜人族の血が入っていても、四分の一、ましてや、両親は人族。ならば、亜人族の能力も人族の中で失われたんだろうね。
「人族って「厄介ですよね」
アジル殿下が言い辛いことを、私が代わりに言った。
「貴族社会では、人族でも離婚は難しいと思いますが、婚約は違いますからね。簡単とはいきませんが、変えることができます。それに、私は平民ですからね、脅せば下りると思ったのでしょう。人族は、婚姻を軽く考えていますから」
だから、番の間に平気で割ってこようとする。
「そこだけは……私たちでも、どうすることができませんわ」
スノア王女殿下の顔が曇る。
「スノア王女殿下が責任を感じることはありませんよ。これだけは、どうすることもできません。民族性の問題ですから」
「達観してるわね……」
スノア王女殿下が怪訝そうに言う。
「予想はしてましたし、その対策は、カイナル様が自らしていましたから、私は不安は感じていません」
「その対策って……訊いてもいいかしら?」
スノア王女殿下が恐る恐る訊いてきた。勇気あるなぁ、王女殿下。私なら、絶対訊かないけど。
「そうですね……私も全部は知りませんが、悪意を持つ者に反応する魔法、物理の防御魔法。状態異常を無効化する魔法。あとは、録画機能を持った魔法具ですね。それに、このピアス、通信機能が付いてます」
ここまで言うと、スノア王女殿下とアジル殿下の表情が見る見る青くなっていた。だから、聞かないほうがよかったのに。でも、亜人族でもここまで青くなるなんて……カイナル様って心配性なの?
「まぁ……学園に番一人通わすのだから、ここまでするのは理解はできますが……録画されていますの?」
二人が青くなったのは、そこか。入学初日に絡んできたものね。
「安心してください、録画はしてませんよ。スノア王女殿下からは悪意は感じなかったので」
あれは、ただの難癖だったからね。私を排除しようなんてしていなかったし、私が番であることを否定する言葉を口にはしてなかった。
「保健室に行きたくない気持ちがわかったよ」
アジル殿下、録画のことは触れなかったわね。
「触れない方がいいと忠告したのですが……聞き入れてくれませんでした」
一瞬、躊躇はしたんだけどね。そこが、運命の分かれ目だったわね。
「皆、退学でしょうね」
スノア王女殿下の台詞に、私は軽く首を横に振った。
「退学だけはしないように、カイナル様にお願いしましたので、クラスは変わるとは思いますが、退学にはならないでしょう」
「えっ!? 敵に情けをかけましたの!?」
いや、そんなに驚かなくても。
「この学園に入学するのに、とても努力し頑張ったと思います。その頑張りを、これくらいのことでなかったことにするのは忍びなかっただけです。罪と罰が釣り合ってませんから」
良いように言ってるけど、自分のエゴだからね。次はないけど。
「……カイナル殿も苦労しているな」
「厄介な番を持ちましたね、カイナル様」
なぜか、カイナル様に同情票が集まっている。どうして?
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