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またまた、絡まれました
しおりを挟む亜人族すべてに言えることだけど、彼らは匂いに関して敏感だ。なので、匂いを付けている人に対して、よほどのことがない限りちょっかいを出そうとはしない。特に、番の色のピアスを着けている者には慎重になる。
それが、亜人族の鉄則だった。
それを破れば、決闘と称した処刑もあると言われている。特に竜人族と獣人族の狼の種族は、その傾向が強いと言われているわ。ちなみに、カイナル様は狼の種族。そう考えると、私に直接ちょっかいをかける亜人族はいないはず。スノア王女殿下は別としてね。そう考えると、アジル殿下が慌てるのもわかるよね。
ならば、亜人族はそう問題じゃないわ。
問題なのは人族――
番の習慣がないからね。亜人族は番になれば別れることはないけど、人族は夫婦になっても別れることがあるわ、普通にね。このピアスのことも婚約したくらいにしか考えていない。なので、容易に割り込めるって考えている。平民相手だしね。まぁ簡単に言えば、婚姻に関しても軽いんだよね。だから、こういうことをしてくる人が出てくるのだけど……それも、徒党を組んで。
失敗したわ……一人にならないようにしてたのに。
忘れ物取りにいったら捕まった。確か……同じクラスの子よね。名前は覚えてないけど、伯爵家の御令嬢だったはず。金魚のフンは見覚えがないけど、たぶん伯爵家に繋がる者たちかな。可哀相に。仕える相手に恵まれなかったのね。
恐れもせず平然としている私に、リーダー格の女が怒鳴り付ける。
「貴女、少し成績が良いからって、いい気になってるんじゃないわよ!! なんで、学園にきたわけ!? 学院にいけばいいじゃない!! カイナル様が優しいから我儘言ってるんじゃないでしょうね!!」
口悪いな……一応、伯爵家の御令嬢だよね。数で脅せば私が泣いて学園を去るとでも思ったのかな。ほんと、愚策だわ。
「カイナル様? さっきから気になったのですが、貴女はカイナル様に名前を呼ぶ許しを得たのですか? 得たとしたらいつですか? 確認しないといけませんので。あと……私とカイナル様のことに、無関係の貴女がなぜ口を出すの?」
立て続けに質問してやった。別におかしなことは言ってないわよ。常識の範囲内のことだけ。
「平民のくせに、この私に逆らうの!! 許さないわ!!」
その金切り声に反応したのは、後ろに控えていた金魚のフンたち。私の肩を乱暴に摑もうとする。伯爵令嬢は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「身体に触れることは止めといた方がいいわよ。まだ、文句は許してあげる。でも、身体に触れるのは別」
一応、低い声で忠告はしてあげたわ。
私の言葉に怯む、金魚のフンたち。でも、馬鹿な主はそれを許さない。
「生意気な平民には仕置きが必要よ!!」
その台詞を合図に、金魚のフンたちは再度私に触れようとした。したが、その手が私に触れることはなかった。
まるで、雷に打たれたかのように悲鳴を上げ倒れていたからね。
「だから、忠告したのに……カイナル様は狼の一族。番である私を、なんの対策もなしに一人学園に送り出すわけないでしょ。付け加えるのなら、さっきの会話と映像はこの魔法具で録画されていますから」
私の台詞に焦り出す、伯爵家の御令嬢と雷に打たれていない金魚のフンたち。
「そっ、そんな……私たちはちょっと貴女に意見をしただけですわ!! それを大袈裟な!!」
「勘違いしているようですが、私はなにもしませんよ。録画を見て判断するのは、カイナル様自身です。弁明なら、カイナル様にしてください。伯爵令嬢様、そこに倒れている人を、早く保健室に連れていってあげてはどうですか。お仲間でしょ」
私はそう言い捨てると踵を返す。
今から急いでいっても絶対間に合わないよね。でもズル休みはできないし、急がないと。あとで、スノア王女殿下とアジル殿下に尋問されるわね。
たぶん、明日からクラスで彼女の姿を見ることはないわね。
このピアスには、防御魔法が付与されている。発動した時点で、彼女たちの運命は決まった。明確な悪意がある者が触れようとしたら、発動する仕組みになっているからね。ほかにも、色々施して付与しているらしい。全部は教えてもらってはないけどね。教えたら引くと思ってるのかな。ほんと、過保護だよね。
そんなカイナル様が、この件を放っておくわけないでしょ。可哀想だけど、人族の見せしめのために、なにかしら厳しい処罰をすると思う。これくらいのことでって思うけどね。運が悪かったとしか言えない。
でもせめて、退学だけは可哀想だから止めないと。少なくとも、伯爵令嬢と金魚のフンは努力して、この難関を突破して入学したのだから。
罪と罰は比例しないとね。バランスは大事だわ。
私はピアスに触れて魔力を流す。
「カイナル様、聞こえますか? 彼女たちを退学させないでくださいね」
不服なのか、返事は返ってこないけど、ちゃんと伝わっているよね。
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