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名前は絶対呼びません
しおりを挟む「ユリシア、迎えにきたぞ!!」
壮絶イケメンがにこやかな笑みを浮かべながら登場したよ。
途端に、私の表情筋は死ぬんだけどね。両親とお兄ちゃんは今だに複雑そうな顔をしてるし。反対にお姉ちゃんは、妙にハイテンションだ。まぁ、相手がカイナル様だからね……それに、番に夢見てる所あるからなぁ……
「いらっしゃいませ、ゴルディー様」
仕方なく挨拶する。絶対、名前なんて呼ぶもんか。
「どうして、名前を呼んでくれないんだ!! 気を悪くすることをしたのか!? だったら、教えてくれ!!」
カイナル様の悲痛な叫びが店に響く。
これ……もう挨拶と化してない。完全に引いてる私の近くで、亜人族の人が不憫だと同情している。
人族と亜人族の壁は高い――
私は小さな溜め息を吐いてから、家族に「行ってきます」と声をかける。落ち込んでいるカイナル様の傍まで歩み寄ると、肩を指でつついた。
「行きますよ、ゴルディー様。ここで嘆かないでください。仕事の邪魔なので」
本当に邪魔だからね。でかいずうたいで狭い通路を塞がれたら、遠回りしなくちゃいけないでしょ。あのカイナル様を押し退ける猛者なんていないもの。
「ユリシアが冷たい……」
私が移動したら、ブツブツと不満を口にしながらも付いてくる。白銀の守護神、どこにいった!?
「はいはい。さっさと行きますよ」
別にカイナル様のことはどうでもいいけど、これ以上、皆の夢を壊させるわけにはいかないわね。早く回収しないと。
「…………冷たすぎる」
まだ拗ねているわ。子供はどっちよ。私は軽く息を吐き出すと言った。
「カイナル・ゴルディー様、貴方は我が国の英雄、白銀の守護神ですよ。皆の夢や憧れを壊すような真似はしないでください」
少し生意気かな。私的には、一般的なことを言っただけなんだけど……この反応はなに?
「ユリシアはどうなんだ?」
真剣に訊いてくるけど、尻尾は勢いよく左右に揺れている。
「……憧れてました。パレードも見に行ったし」
あらためて訊かれると恥ずかしくて、ややぶっきらぼうに答えてしまった。なのに、
「そうか」
カイナル様は嬉しそうに微笑んで短く答えた。千切れそうなほどに尻尾も揺れている。
そんなに嬉しかったの!? 王都に住んでる亜人族も人族も皆、憧れてわざわざ見に行ってたのに。
「ゴルディー様……」
「ユリシアを護れて、本当によかった……」
小さな声でカイナル様は呟く。
亜人族の番に対する扱いや想いの重さって、今だに不思議に思うし理解できないことが多い。実際、何回も引いてるし。拉致監禁したことも許せない。
でも……裏表のないカイナル様の言葉が、素直に嬉しくてほっこりと胸が温かくなった。
「ユ、ユリシアが笑った!!」
「笑ってません」
そう告げてから店を出ると、カイナル様も後ろを付いてくる。そのまま、停めている馬車の前まで移動すると、カイナル様が手を差し出す。いつもなら、その手を取らずに馬車に乗り込んでいたけど、今回は手を取った。
勘違いしないでよ。今回だけなんだからね。
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