ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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求婚されたと同時に始まるデスゲーム

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 愛の女神レシーナ様の生誕の日――

 私の運命は大きく変わったの。

 自分の不注意のせいで、亜人族から求婚された。私に求婚したのは二十代前半の白い軍服を着た白狼の男性。

 これが、十年後なら問題にならなかったよね……だって、私今六歳。まだ、ギリ幼児。

 そんな幼児を速攻、この男は監禁しようとする。亜人族の間ではどうか知らないけど、人族ならそれ立派な犯罪だから!!

 この日から――

 無理矢理私を番認定した、狼獣人の病んだ溺愛を一心に受けることになったの。それは同時に一つ選択を間違えれば、即監禁というデスゲームの始まりだった――

 番を解消できないのなら、このデスゲームだけは絶対制してみせる!!

 そう誓ったのは、誘拐され監禁されたあとだったんだよね。初っ端から、詰んでるよね、私……

 そもそもこの世界は、主に竜人や獣人、エルフやドワーフなどの亜人族と人族が共存して暮らしているの。

 ゼシール王国もそう。

 とはいっても、居住区はそれぞれ別だけどね。

 亜人族は身体的にも魔力も、悔しいけど、人族より優秀だから王国に仕えている人が多いの。だからか、王都でも、上手かみて側、つまり王城に近い場所に居住区を構えていた。

 反対に人族は、下手しもて側、王都の門を中心に居住区を構えている。

 確かに、人族は能力的な面は亜人族に劣るかもしれないけど、手先の器用さと事務処理などの速さは亜人族を超えている。だから、文官として活躍している人が多くいるの。そういった人は、亜人族と人族の境界にある中央区に居を構えていた。

 中央区は亜人族と人族が共に生活している場所なの。私の両親が営む食堂もここにあるわ。結構好評なんだよ。よく、獣人の騎士様や兵士さんたちがご飯を食べにくるわ。ピクピクと動く耳とモフモフやプリッとした尻尾と一緒にね。触りたいけど触ったらいけない。尻尾や耳を触らせるのは近い身内か番だけ。それ以外の人が触ると最悪手を切り落とされることもある。それほど大事な場所なの。気を付けてね。

 色々な文化の違いはあるけど、最低限のことさえ理解してれば、仲良しの隣人だよね。騎士様たちは景気にお金落としてくれるし。

 そんな平和的な中央区も、一日だけ様子がガラリと変わる日があるの。

 それが、愛の女神レシーナ様の生誕の日。

 亜人族が公に番を求めることができる唯一の日。

 この日だけは、王都全体が祭り騒ぎで賑やかになるの。でもね、中央区だけは――戦場になる。

 番を求める亜人族。

 そして、番相手になりたい人族。

 武器や魔法は使われないけど、参加者たちにとっては将来がかかってるからね……そりゃあもうバチバチものだよ。まさに、死者が出ない戦場だね。どうして私が知っているかって、参加はしてないけど、店内の大掃除をしているからだよ。ちなみに、私の妹以外、お父さんもお母さんもお兄ちゃんや姉さんも手伝えない。間違って選ばれてしまう可能性があるからね。

 だから、妻帯者や婚約者、恋人がいる人は、始めからこの儀式に参加はしない。中央区から避難して祭りを楽しんでる。

 それが大半なんだけどね……中には、この儀式の日以外に番を見付けて、この儀式に参加するように導くって話も聞いたことがある。私には少し理解し難い世界だよ……恐ろしや。

 それくらい、亜人族にとって番って存在は憧れで唯一無二なんだと思う。友だちの中にも憧れている子いるし。

 その憧れを否定する気はないけど、例え優雅な生活をおくれたとしても、私は好き好んでそんな世界に飛び込もうとは思わないけどね。貧乏なら働けばいいだけだし。人間、手に取れるものって限られてると思うしね。大人になっても、たぶん考えは変わらないと思う。

 床をモップで水拭きしていると、ドア越しに騒がしい声が聞こえてきた。手を止めドアを見る。

 あ~また、泣いている。怒声がするわ。喧嘩でもしてるのかな? ドアを壊さないでよ。あっ、静かになった。

 これで安心して掃除が再開できるわ。でも、安心したらいけなかったんだよね。少しの間のあと、ドアをノックする音が聞こえたの。反射的にドアを開けてしまった。開けたあとで後悔。

 あ~やっちゃった!! お父さんとお母さんに、絶対ドアを開けるなって言われてたわ。

 ドアの入口に、白銀の耳とフワフワの尻尾をした軍人服を着た獣人さんが片足を付いて跪いていた。その手には女神レシーナ様を象徴する白百合。それを受け取ったら、番を承諾することになる。

「あ……やっ出会えた。私の運命の番。さぁ、私の家へ一緒に帰ろう」

 恍惚な表情で告白する軍人様。

 人間、許容範囲以上のことが起きたら冷静になるんだね。それが幸いしたよ。

「お断りします。その花もいりませんから」

 きっぱりと断ると私はドアを閉めた。もちろん、鍵も締めたよ。ついでに、空気を換気していた窓も全部閉めた。一息吐く私。

「なぜだ!?」とドアをドンドンと叩き始め、泣き始める軍人様。ドアが悲鳴を上げてる。私の心臓にも悪い。私はドア越しに叫んだよ。

「私はまだ六歳です!! 子供です!! そもそも、結婚なんて無理です!!」

 普通に犯罪でしょ。私、まだ六歳だよ。

「ならば、せめて婚約でも!!」

 しつこい!!

「絶対に嫌です!! 帰ってください!!」

 断固拒否。この年で、未来を決められるなんて絶対嫌!! 私にも夢があるんだから。

 そんな攻防が何分か続いて、ふと、表が静かになった。

 大人しく帰ったのかな? 

 そんなことを思いながらドアを開けたのが、そもそもの間違いだったの。ううん、違うわ。今日、大掃除に来ていたのが間違いだった。

 恐る恐るドアを開けた先に、白い壁がそびえ立つ。ビクビクしながら顔を上げると、無表情の軍人様が私を見下ろしていた。

 無言のまま、彼の手が私に伸びる――

 私が覚えているのはそこまでだった。

 そして始まるの、監禁生活が。

 私が選択を間違ったから。でも、まだ勝てる可能性はどこかにあるはずよ!! せめて、監禁されない生活を手に入れてみせる!!

 
 
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