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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
対峙
しおりを挟む「一週間ぶりかしら」
私は目の前にいる男に話しかけた。
魔国の入口から少し離れた空き地。山の麓みたいで、人ひとりいないし近くに村や街はなかった。そりゃあそうか。
一応、間合いからギリ外れた場所で足を止めたけど、カインには関係ないわね。そんなことを考えながら、私はカインに視線を合わせる。カインは明らかに不機嫌だった。激おこまでではないけど。
「……六日と二十一時間ぶりだ」
異様に細かいわね、引くわ~ほぼ一週間じゃない、思わず突っ込みそうになったわよ。
「あいからわず細かいわね……それで、私がここにきた理由はわかるでしょ」
「そんなに、あいつらが大事か?」
今さらの台詞よね。私はカインに視線を合わせたまま答えた。
「大事よ。私の居場所なんだから」
「そこには、俺はいないんだな」
私を責めるような口調にイラッとした。
「自分で居場所を放棄した人がなに言ってるのよ!?」
カインが魔国にいることに戦々恐々としながらも、魔王様たちは追い出したりはしなかった。できなかった面もただあるけどね。
そりゃあ、居心地は悪いと思うわよ。でもそれは、仕方ないことだよね。それだけのことをしてきたんだから。それを考えると、追い出さないだけ、かなりの温情をかけられてると思うよ。
「あのやろうを殺しかけたことか?」
よくわかってるじゃない。
「ラックさんね。なぜ、聖魔法を使ったの!? 魔族にとって、それが致命傷になることぐらいわかってるでしょ」
「マリエールに近付きすぎたからだ」
さも当然のようにカインは言う。
理不尽な回答だけど、カインが言うと納得できる自分が嫌だわ。
「それだけじゃないでしょ。あの国王が、ラックさんを私の愛人だって言ったからだよね」
「…………」
無言って肯定だってわかってるでしょ。だったら、朗らかな会話はここまでっていうのもわかるよね。
「――ねぇ、なぜ、神獣様をあそこまで攻撃したの? 神獣様は攻撃しなかったのに」
声のトーンをかなり下げ、私の周りの空気も一気に冷え冷えとしたものへと変わる。普通の兵士なら耐えきれないほどの圧が出ていた。
「ラックを離さなかったのと、俺の許可なく、素手でマリエールに触れたからだ。駄犬には躾が必要だろ」
素手でって言葉に引っかかったけど、今はスルー。
「なぜ、カインの許可がいるのか意味不明だけど」
「そんなの決まってる。マリエール、お前は俺のものだ」
「それは、私がアリエラだった時の約束よね。今は違うわ、私はアリエラじゃない!!」
「そうだな、マリエールはアリエラじゃない。だけど、アリエラの生まれ変わりだ……約束しただろう、忘れたのか? 来世は傍にいると……あの糞女神の呪縛が解けた今なら、その約束が果たせるんだ!! なぜ、わからないんだ!?」
カインがカインであり続けるために、アリエラと交わした約束は絶対のものだった。カインが感情的になればなるほど、私はスーと冷めていく。一度小さく息を吐き出してから、私は尋ねた。
「なら訊くわ。そこに、私はいるの?」
「どういう意味だ?」
私の質問の意味がわからないのか、怪訝な顔で訊いてくる。
「カインは言ったわ。私がアリエラの生まれ変わりだってね。確かにそうよ、否定はしない。でも、私はそれを望まない。さっき言ったじゃない、私はアリエラと違うって。なのに、その約束を貫き通すのは私自身を見ていないよね」
私がわからなかったと思う。わかってたよ、カインは私を通してアリエラを見ていたことを――
「そんなことない!!」
その目は嘘を吐いているようには見えなかった。つまり、無意識か……よけいに質が悪いわ。
「……カイン、最後に訊くわ。貴方はこの世界に私一人だけいればいいの? アレクではなく、ただのカインとしてこの世界で生きていく気はないの?」
もしカインが前者を選んだら、私は再度この手を血に染めることになる。
それは、私の最後の切り札なの――できれば使いたくない。使わずに済むことを私は心の底から願った。
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