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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
全然変わってないじゃない
しおりを挟む要約すると、こう。
魔国に繋がる扉はあの森だけではないの。情報収集と商いのために、一国にそれぞれ扉を設けているらしい。人族には決して分からぬように仕掛けをしてね。
神獣様はその場所を知っていたから、私とラックさんを抱えながらカインの攻撃を避け続けながら、この国にある扉を目指したらしい。そして、私とラックさんを放り込んだあと、慌てて扉を閉めたのだと。
ここで、一つ疑問が浮かぶよね。
カインは転移魔法が使えるのに、扉を閉めても無意味じゃないのって。
転移魔法は一度、自分がきたことがある場所を瞬時で移動できる魔法。そもそもカインなら、強引に閉めていた扉をこじ開けることも可能だと思うけどね。だから、神獣様はまず扉ごと消滅させたらしい。こじ開けられないように。
あとは転移魔法だけど……それを回避する策はあったんだって。
それができるのは魔王様だけ。異変に気付き転移魔法で瞬時に移動してきた魔王様に、満身創痍の神獣様は叫んだそうだ。「やれ!!」と――
「マリエールも気付いておると思うが、この魔国は人族が住む空間とは別の空間にある。だから、少し空間をずらせば別の空間となるのじゃ。前勇者対策用の防衛魔法じゃな。ゆえに、いかに元勇者でも飛んではこれまい。まぁ、時間の問題じゃがな。な~に、気にしなくていい。やつがくる前に移動させればよいのじゃ」
隣でニコさんが「まさか!?」と言っているけど、私自身魔王様の言葉に反論ができないでいた。私もそう考えていたから。
無から有を作り出せる、それがカインなの。
魔王様は簡単に言ってるけど、そんな防衛魔法、いくら魔王様でもポンポン繰り出せないでしょ。国一つを移動させるんだよ、わずかでも。それがどれほどの魔力を必要とするのか、馬鹿でもわかるわ。
黙り込む私に、魔王様は頭を撫でてくれながら明るく優しい声で言った。
「あの馬鹿は、マリエールと交わした約束を律儀にも護ろうとしただけじゃ。そして、わしもな」
だから私に責任はない、気にするなと魔王様は言う。それでも、私は自分を責めてしまう。
約束という言葉の重さを誰よりも知っているから。
カイン、いやアレクも死の間際アリエラと約束した。如何なる手を使っても、かなり拗れた状態でも、カインはそれを叶えようとしている。
それが、カインのアイデンティティだから。
「……責任はあります。私がカインを放置していたから……甘く考えてたから、彼の背負う闇から目をそらしたから、そのツケが回ってきたんです。結果、大切な人を瀕死に追い込み魔国を危険に晒しています」
命をかけて私を逃してくれた神獣様の気持ちを無視することになるけど、私は魔国を出ていく方がいいのかもしれない。いや、そうすべきなんだと思う。
元々、人見知りもあるし、人と極力関わらないで生きてきたし、今もあまり関わりたくはない。そんな私でも、仲間ができた。信頼できる友人ができた。
そして、私はカイン以外の居場所をつくった――つくってしまった――
それが、カインの逆鱗に触れだんだ。
そして、カインをさらに歪めてしまった……
「自分を責めるな。ちゃんと手は打っておるから、マリエールはゆっくりと休むがよい。まだ、魔力も身体のダメージも回復しておらぬしな」
「そうですよ、ゆっくりと休んでください。まだまだ頼みたい仕事があるのですから」
魔王様とニコさんは、私にここにいていいって言ってくれた。ずっと護っていた民を危険に晒してまで。この魔国を担う存在の二人なのに……本当に馬鹿だよ。甘すぎるよ……切り捨てても誰もなにも言わないのに。
その気持ちが嬉しくて涙が出てきた。でも……同時に辛くて胸が締め付けられる。
私は本当に弱い……弱すぎる…………
「…………昔から、全然変わってないじゃない」
魔王様とニコさんが出ていった部屋で、私は胸を押さえながら静かに泣いた。そして吐露したの。
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