341 / 354
第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
魔女認定されてました
しおりを挟む真夜中になりました。
お散歩の時間です。
私たちは今、敵地の王宮内。それも、国王陛下の寝室にいます。理由はわかってますよね。お願いをしにきただけです。
「話し合い? お願いしに来たんだよね、否って言えない」
楽しそうにそう話すのはラックさん。否定はしませんよ。
「なぜ、ラックさんもここにいるんですか?」
「えっ、面白そうだから。それにしても、カイン君優秀だね。まさか、転移魔法が使えるなんて、俺驚いちゃった。それに、すんなり侵入できるなんてすごい!」
本業の人にそう言われるのは、素直に喜んでいいのかな。微妙……
転移魔法で来れることに関しては別に驚かない。元勇者のカインにとって、行ったことのない国なんてないからね。例えそれが前世でも有効だし。ほんと、転移魔法使い放題だよ。侵入するのは、あの糞女神のトラップより断然楽だしね。
「……うるせえ」
うっわ、カイン、機嫌最悪だわ。ラックさんと正反対ね。神獣様もラックさんには呆れているみたいだし。まぁ、邪魔にはならないからいいけど。
「……可愛く言っても、可愛くはありませんよ」
「そう。俺ショック。で、起こさないの?」
いびきをかいて寝ている樽に向かって指差す、ラックさん。
「今、起こす。ーー起きろ」
カインは短く言うと、剣を抜き、剣先を樽の顔スレスレに構える。全く起きない。
「あの……これ大丈夫なの? 完全に防衛本能退化してるよね。深酒しててもないでしょ。仕方ないわね、これなら起きるでしょ」
私はそう呆れながら言うと、無詠唱で水の球を作る。それを、樽の顔の上で破裂させた。
飛び起きる、樽。
「こんばんは、カシュー国王陛下。深酒はダメですよ」
優しく言ってあげたんだけど、不興だったみたい。
「っ、なっ、何者だ!! 近寄るな!!」
そんなに拒否しなくても。わざわざ、こちらから来てあげたのに。
「来て欲しかったんじゃねぇのか」
そう言いながらフードを取る。その顔を見て、樽は顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。
「こ、こんなことをして許されると思っているのか!?」
樽が唾を吐き散らしながら怒鳴っている。汚いな。
「誰に許してもらう必要があるんだ、樽?」
一応、国王陛下なんだけどね。汚物を見るような冷たい目でカインは言い放つ。それを私たち三人、数歩離れて見ていた。
「カイン君、王子様の仮面外してるね」
楽しそうな声で耳打ちしてくるラックさん。
「あれが素ですよ」
「普段はもっと悪いぞ。それよりラック、近いぞ、離れろ」
私と神獣様が答える。
ラックさんは苦笑しながら少し離れた。といっても、半歩ほどだけど。も~ラックさんには奥さんいるでしょうが。全く……
さっきから、樽が意味不明なこと叫んで煩いし、そろそろ頭痛くなってきたんだけど。そろそろ黙ってもらおうか。私は一歩ベッドに近付く。もちろん、フードを取って。
「煩いですね。学習能力ないのですか? 普通気付きません? こんなに大声を上げて、誰も来ないことがおかしいと。それ以前に、私たちがこの部屋にいる時点でおかしいと思いませんか?」
「マリエール・グリード!! この魔女が!!」
「魔女? 私が?」
散々、悪女とか呪われた女って言われてたけど、魔女は初めてだわ。
「我が娘の言う通りだな!! 王太子殿下を闇堕ちさせ、違う男を侍らすとは!! この薄汚れた犯罪者が!! 魔獣を眷属にしたのか、穢れた魔女め!!」
吠える吠える。あ~~だいたいわかったわ。あの王女がなんと言ったのかが。それにしても、
「……ラックさん、いつから私の愛人になったのですか?」
「なった覚えないけど」
「ですよね。というか、神獣様を魔獣と称するとは。カシュー王国は、よほど創世神様たちの加護がいらないようですね」
私はニッコリと微笑みながら言ってやる。こういう時、心情とは正反対の表情をするのが効率的なの。人はそれを不気味に思い、恐れるから。
あっでも、樽は違うわね。彼の耳には私の声は届いてないかも。だって、今まさに殺され掛けてるところだし。
「ーー何故、止める」
カインがとてもとても低い声で訊いてくる。
「感情のまま動いたらダメですよ。あくまで、私たちはお願いをしに伺ったのですから」
そう言うと、カインはチッと舌打ちをしてから渋々剣を鞘におさめた。
「で、どうするのだ? 普通に話し合いなど無理だろ」
「神獣様、私は話し合いとは言ってませんよ、お願いしに来たのです。アレを使って」
私が指差す先には、カインが用意した、小指の爪ほどの小さな剣が三本宙に浮かんでいた。
33
お気に入りに追加
5,482
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

姉妹差別の末路
京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します!
妹嫌悪。ゆるゆる設定
※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる