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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる

魔女認定されてました

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 真夜中になりました。

 お散歩の時間です。

 私たちは今、敵地の王宮内。それも、国王陛下の寝室にいます。理由はわかってますよね。お願いをしにきただけです。

「話し合い? お願いしに来たんだよね、否って言えない」

 楽しそうにそう話すのはラックさん。否定はしませんよ。

「なぜ、ラックさんもここにいるんですか?」

「えっ、面白そうだから。それにしても、カイン君優秀だね。まさか、転移魔法が使えるなんて、俺驚いちゃった。それに、すんなり侵入できるなんてすごい!」

 本業の人にそう言われるのは、素直に喜んでいいのかな。微妙……

 転移魔法で来れることに関しては別に驚かない。元勇者のカインにとって、行ったことのない国なんてないからね。例えそれが前世でも有効だし。ほんと、転移魔法使い放題だよ。侵入するのは、あの糞女神のトラップより断然楽だしね。

「……うるせえ」

 うっわ、カイン、機嫌最悪だわ。ラックさんと正反対ね。神獣様もラックさんには呆れているみたいだし。まぁ、邪魔にはならないからいいけど。

「……可愛く言っても、可愛くはありませんよ」

「そう。俺ショック。で、起こさないの?」

 いびきをかいて寝ている樽に向かって指差す、ラックさん。

「今、起こす。ーー起きろ」

 カインは短く言うと、剣を抜き、剣先を樽の顔スレスレに構える。全く起きない。

「あの……これ大丈夫なの? 完全に防衛本能退化してるよね。深酒しててもないでしょ。仕方ないわね、これなら起きるでしょ」

 私はそう呆れながら言うと、無詠唱で水の球を作る。それを、樽の顔の上で破裂させた。

 飛び起きる、樽。

「こんばんは、カシュー国王陛下。深酒はダメですよ」

 優しく言ってあげたんだけど、不興だったみたい。

「っ、なっ、何者だ!! 近寄るな!!」

 そんなに拒否しなくても。わざわざ、こちらから来てあげたのに。

「来て欲しかったんじゃねぇのか」

 そう言いながらフードを取る。その顔を見て、樽は顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。

「こ、こんなことをして許されると思っているのか!?」

 樽が唾を吐き散らしながら怒鳴っている。汚いな。

「誰に許してもらう必要があるんだ、樽?」

 一応、国王陛下なんだけどね。汚物を見るような冷たい目でカインは言い放つ。それを私たち三人、数歩離れて見ていた。
 
「カイン君、王子様の仮面外してるね」

 楽しそうな声で耳打ちしてくるラックさん。

「あれが素ですよ」

「普段はもっと悪いぞ。それよりラック、近いぞ、離れろ」

 私と神獣様が答える。

 ラックさんは苦笑しながら少し離れた。といっても、半歩ほどだけど。も~ラックさんには奥さんいるでしょうが。全く……

 さっきから、樽が意味不明なこと叫んで煩いし、そろそろ頭痛くなってきたんだけど。そろそろ黙ってもらおうか。私は一歩ベッドに近付く。もちろん、フードを取って。

「煩いですね。学習能力ないのですか? 普通気付きません? こんなに大声を上げて、誰も来ないことがおかしいと。それ以前に、私たちがこの部屋にいる時点でおかしいと思いませんか?」

「マリエール・グリード!! この魔女が!!」

「魔女? 私が?」

 散々、悪女とか呪われた女って言われてたけど、魔女は初めてだわ。

「我が娘の言う通りだな!! 王太子殿下を闇堕ちさせ、違う男を侍らすとは!! この薄汚れた犯罪者が!! 魔獣を眷属にしたのか、穢れた魔女め!!」

 吠える吠える。あ~~だいたいわかったわ。あの王女がなんと言ったのかが。それにしても、

「……ラックさん、いつから私の愛人になったのですか?」

「なった覚えないけど」

「ですよね。というか、神獣様を魔獣と称するとは。カシュー王国は、よほど創世神様たちの加護がいらないようですね」

 私はニッコリと微笑みながら言ってやる。こういう時、心情とは正反対の表情をするのが効率的なの。人はそれを不気味に思い、恐れるから。

 あっでも、樽は違うわね。彼の耳には私の声は届いてないかも。だって、今まさに殺され掛けてるところだし。

「ーー何故、止める」

 カインがとてもとても低い声で訊いてくる。

「感情のまま動いたらダメですよ。あくまで、私たちはお願いをしに伺ったのですから」

 そう言うと、カインはチッと舌打ちをしてから渋々剣を鞘におさめた。

「で、どうするのだ? 普通に話し合いなど無理だろ」

「神獣様、私は話し合いとは言ってませんよ、お願いしに来たのです。アレを使って」

 私が指差す先には、カインが用意した、小指の爪ほどの小さな剣が三本宙に浮かんでいた。



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