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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
いつから属国になったのですか
しおりを挟む「……本当に、戦争を起こそうとしているのですか?」
呆然としながらも、ラックさんにちゃんと訊いたよ。その間に、カインと神獣様が音も気配も消し、私の後ろに立っている。
「らしいね」
軽い口調でラックさんは肯定する。
「どうして? 攻める理由はありませんよね」
正式に婚約を交わしていたのならわかる。国同士の契約を一方的に放棄したことになるから。戦争を仕掛けられても仕方ない。
でも実際は、婚約も交わしていない。口約束すらしていない。それどころか、婚約者がいる相手に横恋慕してふられただけの話でしょ。
「さぁ~そこんところは、俺はよくわからないけど、中心にいるのは王女様とらしいよ。激甘な親が溺愛している娘のお願いを聞いたみたいなものかな」
「「「はぁ!?」」」
二度目のはぁだ。
「なんだ、その理由は!?」
「いやいや、ありえないでしょ」
「その国は、馬鹿な集まりなのか」
カイン、私、神獣様が呆れた口調で言い放つ。
「う~ん、だよね。俺も馬鹿だと思う」
ものすごい満面な笑みで言ったよ。ラックさんもなかなかいい性格をしているみたい。
「いや、この際、馬鹿なのはどうでもいいとして、国境にどれぐらいの兵を集めているのですか?」
それによって、緊張度がはかれる。
「まだ、集めてないよ」
集めてない? それで、戦争を仕掛けようとしているの?
わかんなくて私は首を傾げる。それは、私の後ろにいるカインも神獣様も同じだった。
「簡単に言えば、仕掛けるぞって記した書簡を何通も送ったらしいよ。それに、律儀に返事してるんだって。僕なら無視するよね。だから、完全に馬鹿にされるだよ、マリエールちゃんがいた国」
ケラケラと笑いながら、ラックさんは毒を吐く。
私たちは言葉も出なかったわ。その通りだもの。反論の余地なし。完全に見下されてるわ。少なくとも、一国に対する対応じゃない。まるで、属国になった扱いだわ。それでも酷いけど。
「…………そこまでされて、反対に、こちらから戦争を仕掛けられると考えていないのかしら。まぁ仕掛けるような気概があれば、返信しないでしょうね」
「仕掛けられても返り討ちにできるって思ってるんじゃない」
でしょうね。完全に舐められてるわ。背後から歯ぎしりの音が聞こえるよ。殺気も漏れ出してるし。いつの間にか、私たち以外に人が消えているわ。
「王女の要求はなんなの?」
ただたんに、一方的な謝罪を求めてるだけじゃない気がする。訊かなくても容易に想像できるけどね。
「そんなこと、訊くまでもないよ。彼だよ、彼。あの王女様、カイン君がどうしても欲しいみたい。平民になったカイン君を一生飼い殺すって言ってたって、配下からそう聞いたよ」
王太子だったからじゃなく、カイン自身を愛してたのね、あの王女様。危ないヤツに好かれたものね……まぁ確かに、カインは超モテるけど。
「…………潰してやろうか」
ポツリと吐き出される言葉。もちろん、この声の主はカインだ。
「潰すのは駄目でしょ。後々面倒ですから。代わりに、馬鹿親を脅すのはありだと思いますよ」
当然、バレないように。とことん、恐怖を味わっていただけたら、娘の我が儘を聞かないようになるでしょ。
「じゃあ、早速行くか」
ニヤリとカインは笑う。
「行くのは深夜がいいですよ。くれぐれも、精神を壊さない程度にしてくださいね」
壊れても面倒だしね。これで問題解決かな。
「マリエールちゃんは行かないの? もし、殺しちゃたら大変じゃないかな? カイン君、マリエールちゃんが絡むと短気なところあるから」
ラックさんの意見に、私は渋々頷いた。ほんと、ラックさんって人をよく見てるわ。
☆☆☆
最後まで読んで頂きありがとうございます。
読んで頂くだけでとても嬉しいです。励みにもなります。
余談になりますが、実は〈第一回きずな児童書大賞〉にエントリーしています。初の児童書ですね。
タイトルは【こうなったら、頑張るしかないでしょ~両親大好きっ子平民聖女様とモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ~】です。
もし時間があれば、読んでもらえると嬉しいです。
これからも頑張って書いていきますので、宜しくお願い致します。
応援ありがとうございます!
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