今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる

事実と真実

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「私もマリエールを側妃にはしたくない。ありえません。それが、国王陛下と王妃殿下の意向だったとしても」

「ならば、どうするつもりだ?」

 国王陛下は困惑と苛立ち、そして畏怖などの感情が入り乱れた表情をし答える。

 少なくとも、親が子に見せる表情ではないわね。でも、それは仕方ないこと。国王陛下である以上、政に私情を挟んではいけない。だとしても、これはないわ。完全に、感情ダダ漏れよね。畏怖か……実の親に抱かれたら、ちょっとくるわね。

「私は王籍を、マリエールは貴族籍を返上したいと考えております。その許しをいただきに参りました」

 キッパリとカイン殿下は宣言した。

「そっ、それはならぬぞ!!」

「何を言っているのですか!?」

 ほぼ同時に、国王陛下と王妃殿下が叫ぶ。

 当然、反対されるわね。カイン殿下は唯一の子供だし、できも良いからね。

「お忘れですか、国王陛下、私もあの場にいたのですよ。マリエールの側に。そして、呪いに全身を侵されたマリエールを大神殿まで運んだ。その姿を、大勢の者が目撃しています」

 感情むき出しの両陛下とは違い、カイン殿下の口調は落ち着いていた。

「カイン、お前は呪われてはおらぬ!!」

「そうですよ!!」

 両陛下は声を荒らげ否定する。

 私と違うと言いたいのだろう。確かに違う。事実、カイン殿下は呪いに侵されてはいない。だけど、言いたいのはそのことじゃないの。両陛下は気付かない。

「それを証明できますか?」

「現に……大丈夫ではないか……」

「マリエールも大丈夫ですが」

「マリエールはカインとは違う!!」

「どう違うのですか?」

 カイン殿下が国王陛下を見る目は冷たい。

「マリエールもそう思うだろ!!」

 国王陛下の矛先が私に向く。カイン殿下を丸め込むことができないと思ったからだろう。

「失礼を承知で言いますが、違わないと思います」

「なっ、何故だ!?」

「事実と真実が違うからですわ」

「何が違う!! 一緒ではないか!!」

 国王陛下の怒鳴る声を聞いていると、段々、私の中の何かがスーと冷えていった。

「事実と真実、似てはいますわ。でも、一つだけ違う点があります。……事実は、始めから一つしかありません。しかし、真実は一つではないのです。人の手でいかようにも作り出すことができます。そしてそれは、事実より重きを置かれることもある」

「……それは」

 反論したいが、言葉が出てこない国王陛下に構わず、私は続けた。

「時として、人がどちらを好むのかはわかりません。ですが、私の件についてならわかりますわ。貴族たちや隣国が望むのは、私が呪いを受けた真実だけですわ。治ったという事実はいらないのです」

「カインは違う……」

「違いません。同じです。ただ、それを口にしないだけですわ。今はーー」

 権力とは言わず力何かしらの力を持つ人は、その力を保持し続けようとする習性が強い。そして保持できたら、更に欲を出す。そこで、破滅する人は多いけどね。

「いずれ、カインも危うい立場に追い込まれる、と言いたいのですか!?」

 今度は王妃殿下が鋭い声で言い放つ。

「はい。気付きませんか? それとも、気付かない振りをなさっていらっしゃるのですか?」

 割りと本気で訊いてしまった。

「失礼ですよ!! マリエール!!」

 王妃殿下が握っている扇が唸る。

「カイン殿下と隣国の王女様との婚姻問題、その裏にある意図を考えてみてくださいませ。カイン殿下が呪われた場にいたことも加味して」

 ここまで言えばわかるでしょ。ほぼ正解を言っているのだから。

「まさか!? 考え過ぎではないか?」

 国王陛下の声に私は呆れた。私が呆れてるくらいだから、カイン殿下も呆れてるわね。

「考え過ぎ? 何を甘いことを。じゅうぶんに考慮すべきことです。証拠はありませんが」

 カイン殿下にバトンタッチ。

「証拠がないのに滅多なことを申すな!!」

「証拠が出てきた時点で詰んでいます。隣国に大きく言えないのなら、最悪な展開を考えて対処をすべきではありませんか。私が暗殺される前に」

 やっとここまで来たわね。

「どうするつもりだ」

「対処できないのなら、原因を排除すればいいのです。私とマリエールを」

「排除? 平民になることがか」

 わからぬと言いたそうな表情に、私は溜め息を吐きそうになった。

「はい。再度繰り返しますが、私は王籍を、マリエールは貴族籍を国に返上したいと考えております。というか、返上します。絶対に。反対は許しません」

 カイン殿下、国王陛下相手に笑いながら脅迫してるわ。その発言で、力関係がわかるわね。

 カイン殿下の威圧に身体が硬まり、言葉を発せない両陛下。そんな状態の両陛下に近付き、カイン殿下は用意していた魔法紙にサインするよう促した。ペンまで用意して。

 その様は、完全に魔王そのものだったよ……

 

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