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第七章 痺れを切らした婚約者が襲来しました
カイン殿下の本音と覚悟
しおりを挟む「俺がそれを嫌だと言ってもか」
思いもしないカイン殿下の登場に、私は言葉を失い固まってしまった。それと同時に知る。彼が私と神獣様との念話を聞いていたと。神獣様がカイン殿下に回線を繋げていたのね。私からはできないから。
「…………それは本心ですか?」
少しの間があいたあと、私はカイン殿下を問いただした。
「俺は始めから冗談など、言っていない」
先程の泣きそうな表情は消え、不機嫌そうにカイン殿下は答えた。カイン殿下らしい台詞に、私は少しホッとして苦笑する。
「そうですね、カイン殿下は、そもそも冗談を好みませんね。……本気で、王太子の座を降りるとお考えですか?」
「そう言ってるだろ」
「本心で? 一片の後悔もありませんか?」
私の質問に、カイン殿下は戸惑う様子を見せた。
「……ないと言ったら嘘になるな。今まで、王太子として頑張ってきたからな。でも、この選択は間違っていないと確信している」
カイン殿下と腹を割って話すのって久し振りね。私が途中から向き合わなかったからだけど。
「私を護るためですか?」
「それもある。だけど、この国を護るためでもある」
「この国を護るため?」
「そうだ。マリエールの呪いが解除したことを王家や大聖女が言ったところで、貴族たちには関係ない。あいつらは、呪いに掛かった事実だけが真実だからだ」
カイン殿下の言葉に私も項く。
私が邪魔な奴らにとって、解除されたかなんてどうでもいいことだ。呪いに掛かったという事実だけあればいい。その事実だけで、私をジワジワと追い込めばいいと画策しているのだから。
「カイン殿下の仰る通りですわ」
でもそれが、王太子の地位を降りることに繋がるの? 私抜きに。
「それは、俺にも言えることだと思わないか?」
そう問い掛けられて、私はハッとし否定した。
「カイン殿下は呪いに触れてはいないでしょ!!」
「あの場にいたのはマリエールと俺、あとは隣にいる犬だけだ。誰が証明する」
確かに、カイン殿下の言う通りだわ。だからといって、簡単に納得はできない。
「カイン殿下は私とは違います!! 多くの貴族や民が認めています!!」
「今はな。自分たちの不都合が起きたら、奴らはこの件を持ち出してくるだろうな。現に俺が、マリエール以外に妃はいないと言ったら、水面下で動き出したぞ」
興奮する私と対称的に、カイン殿下は冷静に答える。
「まさか!? あの王女様の留学ですか!?」
そい言った途端に、カイン殿下は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ああ。だから、俺は王太子を辞めることにした。残念だし悔しいけど、国が揺れるのだけは避けたい。大国に目を付けられてるしな。だからといって、国を見捨てるつもりはないぞ。支える方法はいくらでもあるだろ。今まで勉強してきたことも無駄にはならない。それに、身軽になった方が自由に動けるからな。案外その方が、大国にとって不都合だろ」
本気だってことが、ヒシヒシと伝わってくる。
そうか……もう決めたんだね。だとしたら、私はもう何も言えないわ。だって、一度決めたことを覆すことなどしないでしょ。昔からそうだった。
「…………わかりました。では、私も貴族籍を返上しましょう」
貴族籍に未練なんてない。元々、私は貴族を辞めるつもりだったから。毒親から逃げ出して、ハンターになろうと考えてた。その用意もしていた。状況が変わって、一度は思い止まったけど、今はもうどうでもいい。かえって、邪魔なだけよ。
それに、王太子の座を降りたカイン殿下が、そのまま王都に留まることはないからね。身軽になるって、そういう意味だと思う。
「悪いな、マリエール」
口調は軽いけど、明らかに落ち込んでるわね。いつもは俺様なのに。
「別に構いませんよ。私はまだ、貴方の婚約者ですからね」
まだを強調してやったわ。この先、どうなるかなんてわからない。でもまぁ、これで、色んな柵から開放されるんだから、とりあえず良しとしますか。
まさにこういうところが、悪役令嬢って言われるゆえんなんだろうね。王女様が散々言ってから、久し振りに思い出したわ。
☆☆☆
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。少しでも楽しんで頂けたら、とても嬉しいです。
実は近況報告にも載せましたが、新作をアップしています。初の児童書ですね。
タイトルは【こうなったら、頑張るしかないでしょ】です。
内容は、両親大好き田舎娘が聖女様に!? モフモフと新米聖女様のほのぼのライフです。
気楽に読めますので、是非読んでみて下さい。
これからも頑張って書いていきますので、応援宜しくお願い致します。
応援ありがとうございます!
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