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第七章 痺れを切らした婚約者が襲来しました
初めての我が儘
しおりを挟む「うむ。優柔不断で無責任じゃな」
私の顔を見るなり、魔王様は顔を顰めズバッと言い放った。その顔も可愛い。
私は一瞬声が出なくなる。さすが魔王様、的確に私の急所を突いてくる。精神ダメージHP1だわ。でも、その通りだから何も言えない。
そう。カイン殿下と神獣様から逃げ出した私が突撃したのは、魔王様の所。
全身に強化魔法を掛ければ、王都まで二日しかかからないからね。それに、こんな相談ができるのは魔王様しか思い浮かばなかったし。魔王様にとっては、大迷惑で厄介事だってわかってるけど……頼れる人いないんだもの!! 私って、友だちいないし……敵はたくさんいるけどさ。なんか、悲しくなってきたわ。
「わかってますよ……」
「それで、どうするつもりなのじゃ?」
突き放すことなく、訊いてくれる。ほんと、魔王様って優しくて懐が広いよね。元凶である私を魔界から放り出せば、厄介事は簡単に解決するのにね。大半の人なら放り出すわよ。塩撒いてね。
「……正直、選べません。頭ではわかってるんです。王太子妃として、カイン殿下の手をとらなければならないと。今の時間は、呪いが本体から完全に消えるまでの自由時間。終わりがくるって理解していたのに……あまりにも、今のこの時間が楽しくて、終わらせたくないんです。我が儘ですね」
こんな我が儘は初めて。
何度も繰り返してきた人生の中で、こんなに楽しくて笑ったことはなかった。
ただただ、生き残ることに必死だったから。十八歳以上生きるだめだけに、全ての時間を費やしていたんだから無理だよね。
そんなことを考えていたら、魔王様が大きな溜め息を吐いた。
「何故、そんなに難しく考えるのじゃ。色々な柵はあるじゃろ。それは、魔族も人族もかわりはない。それらを取り払って、マリエールはどうしたいのじゃ?」
口に出してもいいの? 一度出したら止まらなくなるよ。神獣様の相槌をうってたのとわけが違う。
「……全てを取り払って…………なら、私は……」
「私は?」
魔王様は促す。なんとしても、私の本心を聞きたいみたい。
たぶんここが、分岐点。
「…………旅がしたいです。色々な場所を訪れたり、冒険がしたい」
魔王様から目を逸らさずに、私は答えた。
「まさか、一人でか? 隣に誰がいる?」
隣に……
新しい場所。美しい場所。感動を一緒に味わいたいのはーー。
「神獣様とカイン殿下と一緒にみたい」
スルリと出てきた言葉。
「おい、そこは神獣じゃろ」
呆れたような声で魔王様は言った。魔王様と神獣様は昔からの友だちだものね。
「神獣様との旅は楽しいです。とても。カイン殿下となら、ケンカ腰で騒がしい旅になると思います。それはそれで、面倒で苛々するでしょうね。ただ……美しい場所を訪れた感動やワクワク感は、神獣様もカイン殿下も同じように味わって欲しいんです。神獣様は見た景色かもしれないけど、カイン殿下にとって初めての場所だから。……魔王様、カイン殿下はね、私と同じ、生き残ることに必死だったのです。だから、外の景色を知らない。私は彼にも知って欲しいのです」
それが、嘘偽りのない、私の本当の気持ち。
カイン殿下と婚約を交わしているけど、その関係性は同士。背中を預けれる仲間。まさにそれかな。それに比べて、神獣様は家族愛に近いと私は思う。どちらにせよ、恋愛感情ではないわ。カイン殿下もね。胸を焦がすような熱い感情は沸き起こらないもの。
というか、もう……そんな感情忘れてしまったわ。
「ならば、あの二人と旅をするというのか? ある意味、勇者よの~」
魔王様の言葉に、私は苦笑い。
「それは、天地がひっくり返っても無理でしょう。ことあるごとに派手な喧嘩をして、大小問わず、災害が起きそうな気がします」
実際、魔界を壊しかけたからね……。魔界がこれだから、人間界では、さらに被害が大きくなりそうな気がするわ。
「なら、どうするのじゃ? 片方に入れ込むと、片方が焼き餅を焼いて暴走するじゃろう」
当然の疑問よね。
なら、私の答えは一つだわ。
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