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第七章 痺れを切らした婚約者が襲来しました
あの時の目
しおりを挟むカイン殿下が少しでも私に近付こうとすると、マッハの勢いで魔王様が逃げて行く。
「魔王様、ケルベロス様忘れてますよ~~」
そう去った方向に声を掛けたら、魔王様は空間魔法を使い、手だけ出して恐る恐る回収して行った。
魔王様……よほど恐かったのね……いったい、何をしたの? カイン殿下。
「マリエール、犯罪者を見るような目で見るなよ。特に何もしていない」
苦笑いしながら、カイン殿下がこっちに近付いて来る。
「本当ですか?」
あの怖がりようを見たら普通疑うわよ。
「本当だよ、何もしていない。で、マリエール、逃げ出さないんだな?」
何がおかしいのかわからないけど、楽しそうに訊いてきた。
「逃げてよろしいのなら、速攻逃げますけど。もちろん、本体は回収させてもらいますよ」
色々な柵がなければ、悩むことなく速攻で回収して消えてるわ。
半ば、人間を止めたカイン殿下相手なら、早々と見付かりそうだけどね。まぁでも、実際逃げてみないと、逃げ切れるかどうかなんてわかんないか。う~ん、どうしようかな。
「それは嫌だな。長い間離れていたんだ、もう離れたくない」
その声の熱さに、私はカイン殿下を見上げる。離れていても気付いた。
……あの時の目だわ。
糞女神のせいで、私を殺さなければならなかった時の目。
理由を知らなかった時は、なんで、殺す側がそんな目をするのかわからなった。
昔から外面がよくて優秀で、でも病んでいて、私に異様に執着して……黒く澱んでいる目をしているのに、あの時の目はとても澄んでいた。間近で見ていた私が、引き込まれてしまいそうなほどにね。だからこそ、私は糞女神の呪いをカイン殿下から知らされた時、信じることができたのよ。
本当、ずるいわね。今、その目で私を見るなんて。
私はどうしたらいいの? そんな目をされたら、突き放せない。差し出された手を取りそうになる。本当の私はーー
「マリエール!!」
神獣様が私の名を呼ぷ。鋭く低い声で。そして、私とカイン殿下の間に体を割り込ませたと思ったら、私の襟首を噛むと、強引に自分の背に乗せた。
「神獣様!?」
びっくりした私は、思わず声をあげた。しかし、神獣様は私を無視して、カイン殿下を見下ろしている。圧を放ちながら。
「カインよ。我は、お前にマリエールを渡さぬ。到底幸せになれないからな」
神獣様が宣言した。
「あぁ!? 俺の傍にいて、マリエールが幸せになれない? あるわけないだろ? 糞女神のせいで失った愛情以上の愛情を、俺はマリエールに注ぐ。一生を掛けてな。俺とマリエールの邪魔をするなら、排除するだけだ。神獣が相手でも容赦はしない」
マジで殺る気だわ!!
「駄目!!」
私はそう叫ぶと、反射的に神獣様の前に身を投げ出していた。
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