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第七章 痺れを切らした婚約者が襲来しました
それは犯罪です
しおりを挟む風に乗って悲鳴が聞えた。
甲高い子供の声がーー。
まさか、もう!!
神獣様のスピードがグンッと上がる。私は振り落とされないように、神獣様にしがみつく。
魔界の出入口であるダンジョンに到着した。
そこで私たちが見たものはーー。
「…………遅かったか……」
「遅かったですね……」
私は口元をピクピクと引き攣らせながら呟いた。
なんか、頭痛くなってきたわ……まぁ、最悪な結果を迎えてないことはよかったけど。
間に合わなかったのか、ダンジョン前で伸びているケルベロス様。
その横で、やけに機嫌がいいカイン殿下があぐらをかいて座っている。それも笑いながら。あのカイン殿下が声を出して笑ってるのよ、怖いわ!! 魔王よりも魔王らしいのに。回れ右をして逃げたい。でも、逃げれない。
魔王様を人質にとっているのだから。
私と神獣様が寒気を感じながら引いている間も、魔王様の助けを求める悲鳴が響いていた。
「なっ、なに固まっておるのだ!! 早く、我を助けるのじゃ!!」
がっしりと魔王様は元勇者に捕まっていた。それもあぐらをかいた上で。
「マリエール!! さっそく、会いに来たぞ!!」
機嫌がいいカイン殿下は、勢いよく手を振りながら私の名前を呼んだ。
「カイン殿下……それ、犯罪ですよ」
見た目、完全アウトでしょ。どう見ても、変質者にしか見えないわ。
「犯罪? 確かに見た目は問題あるかもしれないけど、年齢的には大丈夫だろ?」
年齢的にはね!!
「どちらにせよ、アウトですよ、カイン殿下」
面識のない女性をあぐらをかいた上に置く事態、アウトです。間違いなく、牢屋に放り込まれるわ。変質者として。
「そうか? 意外とすばしっこいからな、捕まえたらこうなった」
悪びれずに、カイン殿下は言った。
全然、悪いって思ってないわね。カイン殿下にとって、魔王様は、私がここに来るまでの暇つぶしの玩具ってところか。
「離してあげてください。可哀想でしょ」
私は溜息を吐きながら言う。
「わかった」
あれ? 意外と素直に離してくれたわね。
魔王様がものすごい勢いで飛び込んできた。強化魔法掛けてなかったら、吹っ飛んでたわね。いや、死んでたか。まぁ、大丈夫だけど。半分泣いてるわね、魔王様。
うん……恐かったね。よしよし。
私は魔王様の頭を撫でてあげる。
「前の魔王って、ただの筋肉馬鹿のナルシストだったのに、今の魔王はずいぶんとちんまりして可愛いな。可愛モノ好きのマリエールが気にいるわけだ」
そんなことを言いながら、カイン殿下は腰を上げた。カイン殿下は、満面な笑みを浮かべながら私を真っ直ぐに見詰める。隣にいる神獣様は、まるで見えていないみたいね。
「早い、お越しで」
「それだけ、マリエールに早く会いたかったからね。さてと、約束通り来たよ、マリエール。俺の最愛。これから、本気でくどくから、覚悟しろよ」
爽やかな笑みが黒く見えるのは私だけかな。神獣様が隣で唸ってるし。うわっ、牙鋭い!!
……あ~マジに逃げたいわ。
現実逃避しそうになっている私の服を、グイッと強く握り引っ張る魔王様。
「逃さぬぞ、マリエール。あれをどうにかするのじゃ。放置するのは許さぬ」
ですよね~~。
まぁ、そろそろ本体に掛かった呪いも完全に解ける頃だし、一度戻らないとね。
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