315 / 354
第六章 友人からお使いを頼まれました
聞かれてました
しおりを挟む『…………マリエール』
思わず、神獣様に『嫌わないで』って声を出そうとしたら、私の名を呼ぶ声がした。その声は、私を押し止めるには十分だった。
『カイン殿下……』
振り返ると、泣きそうな顔をしたカイン殿下が立っていた。
さっきの話、聞かれたの……?
たぶん、ううん、間違いなく、さっきの話を聞かれたわね。そもそも、ここは夢の中。私がゼリアス様に呼ばれたのなら、カイン殿下が呼ばれていてもおかしくはないわ。
『……マリエールは、そこにいる犬が好きなのか? 愛してるのか? 子をなして番いたいほどに愛しているのか?』
カイン殿下が矢継ぎ早に訊いてくる。
その目は感情が全く籠もっていない。代わりに、黒い火が見えるわ。完全に病んだ部分が出てるわね。まぁそれは、ひとまず置いといて、カイン殿下はおかしなことを言ってるわね。思わず、首を傾げてしまう。
『神獣様と子をなす……? どうやって? そもそも、種族が違いますよね。それに、カイン殿下、神獣様は犬ではなくフェンリルですよ』
『種族が違っても、番うことはできるぞ』
ゼリアス様が教えてくれた。カイン殿下がゼリアス様を激しく睨む。
『……番ったら、ずっと一緒にいられるのですか?』
思い切って、ゼリアス様に訊いてみた。
『まぁ番ったら、ずっと一緒にはいられるが、ずっと一緒にいたいがために番うのか?』
すると、ゼリアス様に反対にそう訊き返された。
『今が、とても楽しいのです。マリエールを演じることなく、自分らしく生きてるって、心からそう思えるのです。……それは、神獣様が私に新しい世界を見せてくれたからですわ。一緒にご飯を食べて、時には怒ってくれたり、心配してくれたり、一緒に大声で笑ってくれたり、全てが初めてだったのです。それを失うのが怖い。……ほんと、馬鹿ですよね。神獣様に番ができて、神獣様の中で、その女性が一番になるのが怖いのです』
まるで、幼子のようだと自分でも思う。
ゼリアス様はなんとも言えない表情をして、神獣様を見下ろしている。
『それって……マリエールにとって、その犬は親みたいなものってことか……』
カイン殿下がブツブツと呟いている。そんなカイン殿下を、神獣様が唸りながら睨んでいた。
親……うん、それに近いわね。でも、親じゃ番になれないよね。あっでも、愛情は後から変わるものかもしれないし……
『マリエール、それは、神獣様に失礼だよ』
いつの間にか、後ろに来ていたカイン殿下に肩を掴まれた。
あっ、また口に出してた。
『マリエールは俺のことを愛してないのは、よくわかった。知りたくはなかったけど、薄々はそんな気がしていたんだ。糞女神のせいとはいえ、何度も何度も、マリエールを傷付けて殺してきたからね。俺が触れる度に、マリエールが緊張してるの、俺が気付かないと思ってた?』
泣きながら笑っているような表情で、カイン殿下は告げる。
『……ごめんなさい』
そんな表情をさせて。
カイン殿下は私の頬に一度手を添えようとしたが、止めて、私の手を掴んだ。
『謝らないで。マリエールの本心を知ることができてよかったよ。でも、俺は諦めない。時間が掛かっても、マリエールの気持ちを、もう一度自分に振り向かせてみせる。そのために、俺は全てを投げ捨ててもいい。……覚悟しといて。俺は、マリエールの心をもう一度手に入れてみせるから』
そう告げた後、カイン殿下は掴んだ私の手を自分の口元に持っていき、軽くキスする。
『糞ガキ!!』
神獣様がめっちゃキレてる。
カイン殿下は完全無視。いいのかな……
『それじゃあ、マリエール待ってて。すぐに会いに行くから』
再度、手の甲にキスをすると、カイン殿下は颯爽と帰って行った。
マジで、魔界に来るきなの……
28
お気に入りに追加
5,480
あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる