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第六章 友人からお使いを頼まれました
三番目くらいには生きてるんだけどね
しおりを挟む「女が、おいって、言葉遣い悪いぞ」
白い寅さんが笑いながら注意してきた。ちょっと、イラッとする。
「あー心の声が口から出たんですね。失礼しました。それで、なぜ、貴方様がここに? 王都を護り、魔王様をお護りするべき第一部隊隊長様が、この村にいるのですか?」
わざと刺々しい口調で言ったんだけど、目の前にいるのは脳筋。脳筋に遠回しな嫌味は通じない。
「魔王様は俺よりも強いぞ。それに、王都は魔王様の魔法防壁で護られてるから、大丈夫だぞ」
悪びれずに答える、隊長さん。
忘れてたわ。脳筋イコール素直。悪く言えば、単純バカだってことに。かなり、イラッとした。
「でしょうね。魔王様は強いし、王都を攻撃なんて不可能ですね。で、なぜ、貴方がここにいるんですか? たった一人で、供も付けずに」
訊きたいとこはそこ。
「供がいなくても、一人で大概なことはできるぞ。ここにいる理由か? 決まってるだろ、マリエールと手合わせができないからだ。魔王様にも許可をとってるぞ」
そう言いながら、隊長さんは私に手紙を渡す。やたら上質な紙だった。誰が書いたかわかるわね。
そこに書かれていた文はたった一行。
綺麗な文字で『後はよろしく頼むのじゃ』だった。
…………魔王様……私に押し付けたわね。
思わず、グチャと手紙を握り潰したわ。沸き上がる怒りを抑えたまま、私は隊長さんに尋ねる。
「隊長さんは、手合わせをするために来たんですか? 出発前に散々、付き合ったと思いますが?」
私が王都を留守にするっていう話を、どこからか聞いて来た隊長さんは、ニコさんの仕事部屋にのり込んできたのよ。それで、仕事の邪魔になるから、嫌々付き合う羽目になったんだよね……
「あれぐらいで、足りるわけないだろ。体の奥が疼いて仕方ないだ。頼む!! 俺の熱を沈めてくれ!!」
必死に頼み込む、隊長さん。
ライさんとフリードさんは顔を赤らめ、慌てふためいている。
ん? なんで?
その反応に首を傾げていると、店内にいた客の大半が、ライさんたちと同じ反応をしていることに気付いた。
いや違うかな。神獣様だけは違ったわ。殺気と威圧を放ちまくっている。激オコ。神獣様がここまで怒るの初めて見たわ。
神獣様は椅子から下り、やけにゆったりとした動作で隊長さんに近付く。
「なっ!? なんで、神獣様が!?」
体調さんが後退る。耳は横に倒れ、尻尾は足の間に。その姿、結構可愛い。
「たまには私でなく、神獣様に手合わせしてもらったらどうです?」
珍しく、神獣様が超殺る気モード。ならば、ここはお譲りします。
「えっ!? いいのか!? マリエール、ありがとうな。一度、神獣様と手合わせしたかったんだ。ここに来て正解だったぜ」
さっきまでとはうって変わり、超嬉しそう。温度差ありまくりね。
「お礼を言われることはしてませんわ。あっ、でも、ここじゃ手合わせできないので、私たちが食べ終わるの待ってもらいます? 村を出た方が被害が出なくていいと思うので」
「おう!! 待つ待つ」
寅さんの尻尾は太くて長いんだよね。それが犬みたいに左右に振れてるのって、微笑ましくない。まぁ、傍迷惑な脳筋だけどね。
「……あのさ、マリエール、ジョルジュの言ってる手合わせって、拳を振り回すアレか?」
会話が途切れたタイミングをみて、ライさんが小声で訊いてきた。
「なんで、そんなことを? それ以外に何があります?」
質問の意図がわからなくて、首を傾げる私に、ライさんは苦笑いをしながら「そうだよな」と呟く。フリードさんも苦笑い。なぜか、他のお客さんも似たような反応。
それ以外に、何かあるのかな?
「拳を振り回す以外に、何かあるんですか?」
反対に訊いてみた。すると、顔を赤らめ慌てふためくライさん。ライさんの隣にいるフリードさんに視線を移すと、苦笑しながら教えてくれた。
「大人には色々あるのですよ」
フリードさんの返答に、ライさんは頷いている。
益々わかんない。これでも、この中で三番目くらいは生きてるんだけどね。言えないけど。
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