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第六章 友人からお使いを頼まれました
許されるのは子供だけ
しおりを挟む普段は全く溜め息を吐かないニコさんが、今朝から何度も溜め息を吐いている。
う~ん。今はトラブってる案件は特になかったと思うんだけど。急ぎの案件もなかったよね。もしかして、面接の件かな?
「何か悩み事か? 我が力を貸すぞ。菓子の恩があるからな」
神獣様がニコさんに向かって言った。
「ニコさん、私も力を貸しますよ」
勿論、ニコさんのためなら、少々危ない橋を渡っても構わない。
「ありがとうございます、神獣様、マリエールさん。実は……」
ニコさんが口を開こうとしている時だった。
突如、空間が歪んだの。つまり、誰かが異空間を利用し移動しようとしているってこと。簡単に言えば、一種の転移魔法ね。若干違うけど。空間移動が近いかな。とてもとても高度な魔法だよ。
「それは、私が説明しよう!! うわっ!! 何をする!?」
颯爽と登場しようとした男は、突然現れた透明な壁に貼り付くように激突。出られないまま、無様な格好を晒している。結界を張ったの。明らかに不審者だからね。
「ニコさん。これ、ニコさんの知り合いですか?」
指を指しながら尋ねると、ニコさんは今日一番の溜め息を吐いた。
「ああ、知り合いだよ」
「ただの知り合いではない!! 幼馴染で親友で好敵手だ!! ニコはいつも恥ずかしがりやだな」
なんか一人で納得してるよ。別の意味で飛んでそう、頭が。とりあえず、私たちを襲いに来たわけじゃなさそうよね。魔王様を襲いに来たわけでもなさそう。だって、ここは魔王様の執務室のすぐ近くだからね。この男、全然わかってないわね。
「ニコさん、解いていいんですか?」
「いや、解かなくていいよ」
あ、面倒くさいんだ。
男が煩くギャーギャー騒いでいる。
「例の薬草なら、近いうちに商隊が人族の町に行くから、それまで大人しく待ってろ」
ニコさんは、大人しくという言葉を強調して言った。
「待てないから、ここまで来たのだ」
「待ってろ」
「嫌だ」
駄々をこねている子供のようね。図体デカイのに。
「今度の演習に使いたい技があるのだ!! 魔力を多く使うから、どうしても必要になる」
「なら、使うな」
「嫌、使う」
「使うな!! また、辺りを焼け野原にするつもりか!!」
とうとう、ニコさんがキレた。
うん、なんとなく、溜め息の原因がわかったわ。
「今回はしない。気を付ける。だから」
「駄目だ!!」
折れないニコさんに、男はぶうたれる。いい年をした男がすると、悲しいものがあるわね。
男の視線が私に向く。目がキラリンって光った気がするのは気のせいかな。
「嬢ちゃん、嬢ちゃんは人族だな? だったら、光魔草持っていないか?」
光魔草って、上級の魔力回復のポーションを作るのに必要な薬草なの。希少な魔草だよ。咲く場所も限られてるし、時間も限られてる。魔界には寄生してないのかな? 一応、持ってはいるけど渡していいのかな?
チラリと男に気付かれないように、ニコさんを見る。ニコさんの笑みが怖い。
「あ……持ってないです」
私がそう答えると、ニコさんがめちゃくちゃいい顔で言った。
「わかったら、とっとと帰れ」
手でしっしとすると、ニコさんは仕事に戻った。男の口元は餌を頬張ってるリスのようだ。ますます、悲しくなるわね。ちっとも可愛くない。許されるのは子供だけよ。
「絶対、嘘だ。また来るからな。諦めない!!」
そう捨て台詞を吐くと、男は帰って行った。
いったい、何だったの? 嵐のような人だったわね。
「マリエールさん、神獣様、本当にすみません。あれでも、根はとても良い奴なんです。実力も本物。下級種でありながら、第二魔術団の団長まで登り詰めた男なんですよ」
さっきまでとは違い、ニコさんは優しげな笑みで教えてくれた。
幼馴染って、いいよね。
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