295 / 354
第六章 友人からお使いを頼まれました
許されるのは子供だけ
しおりを挟む普段は全く溜め息を吐かないニコさんが、今朝から何度も溜め息を吐いている。
う~ん。今はトラブってる案件は特になかったと思うんだけど。急ぎの案件もなかったよね。もしかして、面接の件かな?
「何か悩み事か? 我が力を貸すぞ。菓子の恩があるからな」
神獣様がニコさんに向かって言った。
「ニコさん、私も力を貸しますよ」
勿論、ニコさんのためなら、少々危ない橋を渡っても構わない。
「ありがとうございます、神獣様、マリエールさん。実は……」
ニコさんが口を開こうとしている時だった。
突如、空間が歪んだの。つまり、誰かが異空間を利用し移動しようとしているってこと。簡単に言えば、一種の転移魔法ね。若干違うけど。空間移動が近いかな。とてもとても高度な魔法だよ。
「それは、私が説明しよう!! うわっ!! 何をする!?」
颯爽と登場しようとした男は、突然現れた透明な壁に貼り付くように激突。出られないまま、無様な格好を晒している。結界を張ったの。明らかに不審者だからね。
「ニコさん。これ、ニコさんの知り合いですか?」
指を指しながら尋ねると、ニコさんは今日一番の溜め息を吐いた。
「ああ、知り合いだよ」
「ただの知り合いではない!! 幼馴染で親友で好敵手だ!! ニコはいつも恥ずかしがりやだな」
なんか一人で納得してるよ。別の意味で飛んでそう、頭が。とりあえず、私たちを襲いに来たわけじゃなさそうよね。魔王様を襲いに来たわけでもなさそう。だって、ここは魔王様の執務室のすぐ近くだからね。この男、全然わかってないわね。
「ニコさん、解いていいんですか?」
「いや、解かなくていいよ」
あ、面倒くさいんだ。
男が煩くギャーギャー騒いでいる。
「例の薬草なら、近いうちに商隊が人族の町に行くから、それまで大人しく待ってろ」
ニコさんは、大人しくという言葉を強調して言った。
「待てないから、ここまで来たのだ」
「待ってろ」
「嫌だ」
駄々をこねている子供のようね。図体デカイのに。
「今度の演習に使いたい技があるのだ!! 魔力を多く使うから、どうしても必要になる」
「なら、使うな」
「嫌、使う」
「使うな!! また、辺りを焼け野原にするつもりか!!」
とうとう、ニコさんがキレた。
うん、なんとなく、溜め息の原因がわかったわ。
「今回はしない。気を付ける。だから」
「駄目だ!!」
折れないニコさんに、男はぶうたれる。いい年をした男がすると、悲しいものがあるわね。
男の視線が私に向く。目がキラリンって光った気がするのは気のせいかな。
「嬢ちゃん、嬢ちゃんは人族だな? だったら、光魔草持っていないか?」
光魔草って、上級の魔力回復のポーションを作るのに必要な薬草なの。希少な魔草だよ。咲く場所も限られてるし、時間も限られてる。魔界には寄生してないのかな? 一応、持ってはいるけど渡していいのかな?
チラリと男に気付かれないように、ニコさんを見る。ニコさんの笑みが怖い。
「あ……持ってないです」
私がそう答えると、ニコさんがめちゃくちゃいい顔で言った。
「わかったら、とっとと帰れ」
手でしっしとすると、ニコさんは仕事に戻った。男の口元は餌を頬張ってるリスのようだ。ますます、悲しくなるわね。ちっとも可愛くない。許されるのは子供だけよ。
「絶対、嘘だ。また来るからな。諦めない!!」
そう捨て台詞を吐くと、男は帰って行った。
いったい、何だったの? 嵐のような人だったわね。
「マリエールさん、神獣様、本当にすみません。あれでも、根はとても良い奴なんです。実力も本物。下級種でありながら、第二魔術団の団長まで登り詰めた男なんですよ」
さっきまでとは違い、ニコさんは優しげな笑みで教えてくれた。
幼馴染って、いいよね。
24
お気に入りに追加
5,483
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる