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第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です
第一部隊、訪問終了です
しおりを挟む挑発しながらも、私は警戒を解いてはいなかった。見た目ほど、隊長さんがダメージを受けていないことがわかっていたからだ。
現に、隊長さんを【鑑定】してみたけど、減らせたHPは三分の一だけ。
さすが、虎の獣人よね。獣人の中で、竜人の次に強靭な肉体を持つといわれることだけはあるわ。
「そろそろ、再開しましょうか? 隊長さん」
私がそう呼び掛けると、隊長さんは「クックック」と笑いだした。決して大きくないその笑い声は、静まり返った鍛錬場に響いた。
「やるな、お前。何故、手を抜いた?」
ニヤリと笑いながら、隊長さんは立ち上がる。ズボンに付いた埃を手で払いながら。
すっごく、嬉しそうね。人間からお前に格上げされたわ。脳筋らしい、思考回路。
「お褒めいただきありがとうございます。手を抜いた理由ですか、だって嫌じゃないですか、血塗れ、内臓が出た状態に回復魔法を掛けるのは」
賛辞には礼を。質問には回答を。
「言うじゃないか。お前、本当に人間か?」
どういう意味よ。
「人間ですよ。そうでなければ、何なんです?」
「魔族でもじゅうぶん通用するぜ」
魔族に?
「……それは、賛辞かしら?」
賛辞なら、微妙な表現よね。
「賛辞に決まってるだろうが」
どうやら隊長さんにとっては、最高級の賛辞のようだ。床に膝と尻を付かせたからかしら。
「ならば、素直に受け取りますわ」
「ああ。じゃあ、再開しようか」
「構いませんわ」
そう答えると同時に、隊長さんの体が消えた。
斜め後ろか!! 死角を狙ってくるなんて、やるじゃない。
「遅い!!」
避けきれない。なら、受け止めるだけよ。【身体強化】をより強固に掛け直す。
百八十度体を反転させ、両腕を曲げ顔を庇う。正確にいえば首。
初めの一打といい、マジで急所を突いてきているわね。容赦ないわ。迷いもないし……にしても、さすが隊長さん。蹴りがとても重い。魔法掛け直して正解だったわね。掛け直してなかったら、両腕とも骨が粉々になってたわね。下手したら、千切れてグチャって潰れてたかも。
少し衝撃で後退っただけだけど、床に穴が空いちゃったわ。補修の代金が加算されたわね。払わないけど。
「あぁ!? これも受け止めるのか。……女、本当に人間か!?」
本当に楽しそうね、隊長さん。声がウキウキしてるわよ。反対に目はギラギラとしていて、変質者みたいで怖いわ。
聞き逃しそうになったけど、お前から女に呼び名が変わったわね。昇格したのかな。野次を飛ばしていたお仲間たちの中も。野次は聞こえなくなり、代わりに聞こえるのは感嘆の声だ。
「人間ですよ、れっきとした。次は私の番ですよね」
次で絶対に決める。
私は【空間魔法】でしまっていた剣を取り出した。一応、刃を潰した訓練用の剣を。
剣を構え、私は腰を落とし足に力を溜め飛び出す。まずは腹に強打ね。
私がさっきしたように、隊長さんは避けようと身を捩らせる。腹を庇いながら。私は構わずに懐に飛び込み、下から上に向かって剣を振り上げた。
隊長さんの体が空中に投げ出される。空を飛べない者にとって、空中は無防備だ。私は地面を蹴り、ジャンプする。隊長さんの背後に回り込み、ガラ空きの背中に剣に振り下ろした。
隊長さんは地面に叩き付けられる。
私は隊長さんの背中を右足で踏み付けると、顔の横に剣先を突き付けた。念のために、空中には魔法陣を配置している。
「まだ、殺りますか? 殺るのなら、今度は剣ではなく、氷の刃が隊長さんを襲いますが、それでもよろしければ付き合いますよ」
脳筋でも、私が格上の相手だということぐらいはわかるでしょ。
「…………降参だ。俺の負けだ」
私は背中から足を退け、魔法陣を解いた。
やけに、素直よね。悔しそうだけど、何か拍子抜けしたわ。
「約束です。今日の五時までに書類提出お願いますね。それと、ニコさんに謝ってください」
「……わかった」
ほんとに素直だわ。ちょっと気味が悪いわね。でもまぁ、いいか。もう、ここに来ることもないしね。
「後、六時間ほどですね。必死で頑張ってくださいね、予算が欲しければ」
私がそう言うと、隊長さんは五匹ほど苦虫を噛み潰したような顔をした。ちょっと、溜飲が下がった。
「マリエールさん!!」
「なかなかの動きだったぞ、マリエール」
服に付いた埃を払っていると、ニコさんと神獣様が駆け寄って来た。
「応援、ありがとうございます。神獣様、ニコさん」
二人にお礼を言ってから、私は隊長さんに視線を向けた。もちろん、ニコさんに謝ってもらうため。
「…………すまなかった」
ぶっきらぼうな謝り方だったけど、ニコさんが笑っているからいいかな。
第一部隊、訪問終了です。
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