今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
273 / 354
第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です

真夜中の来訪者

しおりを挟む


 夜中、テラスの窓をノックする音がした。私は立ち上がり窓を開ける。

「はい、どうぞ」

「マリエール、確認しなくて窓を開けるでない」

 魔王様に怒られてしまった。

「大丈夫ですよ。魔王様だってわかってますから。それに、神獣様も寛いでますからね」

 神獣様はベッドの上で伸びている。マジで可愛くて天国。もし私を害する者が来たのなら、今頃、間違いなく窓は吹っ飛んでるわね。テラスも原型を留めてないんじゃない。それに、魔王様の魔力を覚えたので、尋ねて来たのが魔王様だってすぐにわかった。

「……一緒に寝ているのか?」

 何故か、魔王様はジトっとした目で神獣様を見ている。すると、神獣様が尻尾を垂れながらベッドから下りた。

 何で? 別に寝たままでもよかったのに。

「ええ。いつも一緒に寝てますよ」

 隠すことじゃないので、素直に答えた。

「マ、マリエール!!」

 慌てたのは神獣様。

 どうして、神獣様が慌ててるの?

「そうか……わかった。マリエール、今から儂の部屋に来い」

「魔王!!」

 神獣様がさらに慌てる。

「えっ!? 魔王様の部屋にですか? もちろん、神獣様も一緒ですよね」

「こやつはこの部屋で十分じゃ」

 え~~それだったら、毎朝のモフモフタイムがなくなるじゃないですか!!

 心の声をはっきりと聞いた魔王様は、ジーと神獣様を凝視している。

「我は、な、何もしておらん!!」

「しておるではないか。未婚の娘と同衾とは……」

「ま、魔王様!? な、何言ってるんですか!?」

 同衾って、同衾って。異性とベッドを共にすることよね。た、確かに、神獣様は雄だけど、異性になるの!? えっでも、よく、朝顔を舐めてくれるけど……

「神獣」

 魔王様の声がとても低い。

「マ、マリエール、落ち着け。我は仲間であり家族のようなものだろ」

 神獣様が焦りながら言ってきた。

「そ、そうですよね。家族であり仲間ですもの、特におかしなことではありませんよね」

 魔王様ったら、大袈裟なんだから。そもそも、同衾って、種族が違うわ。なので、当てはまりないよね。そういった、行為はできないんだもの。

「神獣……まぁよい。ならば、儂もこの部屋で寝るかの」

 凄く疲れた声で、魔王様は呟いた。

「はい。三人でも余裕で寝れますから、一緒に寝ましょう」

 私がそう答えると、神獣様が大きな溜め息を吐いた。

「寝る前に、これを食べぬか?」

 落ち込む神獣様を無視して、魔王様は私に見覚えがある紙袋を見せた。

「いいんですか? それ、没収されたものですよね」

「いらぬのか?」

 まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、反対に訊いてきた。

「いります!!」

「ふむ。素直でよいの」

「お茶淹れてきますね」

「お茶なら持ってきておる」

 そう言いながら、何もない空間から食器とポットを取り出す。そして、近くにあったテーブルに並べた。

「美味しい!!」

「真夜中の菓子は、罪悪感があってなかなかよいのう」

 魔王様、わかってらっしゃる。

「ですよね。……どうかしました?」

 手が止まった魔王様に尋ねる。

「……マリエール、今日は助かった。礼を言う」

「礼ですか? 私、何かしましたか?」

 思い浮かばなくて、首を傾げる。

「助けてくれただろう。食人鬼を」

 少し呆れながら、魔王様は教えてくれた。

「助けたといっても、庇って、治癒魔法を掛けただけですよ。礼を言われることではありませんわ」

「いや、じゅうぶんだと思うが。あやつの命を助けたのはマリエールじゃ」

「魔王様は、あの食人鬼を死なせたくなかったのですね。でも、上に立つ者として裁かねばならなかった。魔族って、力が正義って面があると聞いたことがありますから」

 そう言うと、魔王様は苦笑する。

「脳筋が多いのは事実じゃな。魔王なぞ、魔族の中で一番魔力がある者がなるしの。その中で、あやつは、側近の中でも一番弱い。じゃがのう、誰よりも真面目で仕事をこなす。嫌だとか、しんどいとか口にしたことはないのじゃ」

「……強さって、何ですかね? 魔王様。魔力が多い者は確かに強いです。例え魔力が低くても、武力を鍛えた者も強い。でも、魔力も少なく武力がない者は弱いのでしょうか? 国を支えるのは、魔力が強い者や武力が高い者だけではありません。書類を事務作業を真面目に処理する方がいなくては、国は成り立ちません。その面からみれば、彼もまた大事な戦力ではありませんか? 私は、彼がとても強い方だと思います」

 そんなに驚くようなことを言ったかな? もしかして、気悪くした? 魔王様に意見するなんて、おこがましいことしたから?

 今度は私が慌てる。

「いや、良い意見を聞かせて貰った。感謝する」

 クシャと笑いながら、魔王様は二度目の礼を口にした。





「……その姿になるのは、何百年振りだ? 神獣」

 友の声は呆れと心配が入り混じったものだった。

「獣の姿では、マリエールを運べないからな」

「その姿をマリエールに見せる気はないのじゃな?」

 友の質問に、我は無言で頷く。

「……我はマリエールの幸せを一番に願っておるのだ。マリエールがずっと笑ってくれるのなら、我を選ばなくてもよい。獣のままでよい」

 マリエールの寝顔を見詰めながら、我は答える。近くで寝顔を見れるだけで、我は幸せだ。自然と口元が緩む。友はそんな我を見て、大きな溜め息を吐いた。

「狼は悲しいほど一途よのう……友としては、神獣の幸せを心から願っておる。互いに名前を呼び合える日が来るといいのう」

「ああ……」

 我はそう答えると、マリエールをベッドにそっと降ろした。

 寝ぼけたマリエールが我の頭を撫でる。その手の温かさに我は微笑む。胸に鋭い痛みを抱きながら。

「仕方ないのう。儂は自分の部屋に戻るか。くれぐれも、一線は超えるなよ」

「わかっておる」

「なら、いいが」

 そう言い残し、友は姿を消した。

 我はマリエールの頬を撫でてから獣の姿に戻る。そして、マリエールの隣に体を滑り込ませる。マリエールがいつもと同じように抱き付いてきた。規則正しい寝息を聞きながら、我も目を閉じた。



しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

処理中です...