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第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です
魔王様と神獣様、激おこです
しおりを挟む「楽しかったです。本当に」
超ご機嫌です。
見るのも聞くもの、全てが新鮮で楽しかった。殿下たちとも王都に遊びに行ったことがあったし、小さな町を探索したこともあったけど、今日の方が楽しかった。人目を気にしないでいいからかな。だから、羽目が外せたからかも。
「それはよかった、儂も楽しかったぞ」
「我も楽しかった」
陽が暮れ掛けたので、皆で王城に。私は魔王様に案内されながら、赤い絨毯が敷かれた王城の廊下を、神獣様と一緒に歩いていた。
露店で買ったお菓子の紙袋を抱えてね。今晩の夜食ゲットしたわ。通貨が一緒で助かったよ。甘いものを夜食べるなんて最高よね。悪いことをしている背徳感がなんとも言えないんだよね。
なぜ、魔王城にいるかって? 魔界に滞在している間、泊めてもらうからだよ。ここが一番安全らしいからね。
私だけでも、王都の宿屋に泊まろうと思ってたんよ……甘え過ぎだしね。でも、魔王様の言葉で止めたわ。そこの宿屋の店主、食人鬼なんだって。さすがに、客を食ったりはしないだろうけど……気持ち的にね……ちょっと、落ち着かない。なので、素直に甘えることにしたの。
「趣きがあって、良い城ですね」
派手さはないけど、シックで良い。調度品も品があって好きだわ。魔王って、派手好きでゴテゴテしたものが好みだと思ってたけど、実際は正反対よね。人間の方が悪趣味のような気がするわ。
「古いだけだがのう」
そう答える魔王様も、この城を気に入ってるのが言葉の端々からよくわかる。
「そこがいいんじゃないですか」
そう答えた時だった。
ゾクッ。
全身に寒気が走った。それも一気に。反射的に、私は前を歩く魔王様の方に飛び退くと同時に、戦闘体勢をとる。
視線の先には、人族の青年が書類のの束を抱えて立っていた。私たちを見てニコニコと微笑んでいる。
人族にしては禍々しいオーラ。こいつ、人間じゃない。ここまで人とそっくりということは、食人鬼ね。初めて見たわ。でも、魔物図鑑の通りね。
「魔王様、お帰りなさい」
陽気で気さくな声が魔王城の廊下に響いた。青年の目が歓喜で丸くなる。
「あれ? 人間? 生きてる!! 嬉しいな!! お土産ありがとうございます、魔王様!! 早速、今晩、皆で食べますね」
ニコッと嬉しそうに笑う口元から、無数の牙が見えた。伸びる手。
早速、餌認定されたわ。
「許さぬ。マリエールは儂の客人、控えろ」
「マリエールを食べるとぬかしたか、小僧」
魔王様と神獣様が私を背に庇い、言い放つ。
「え~~お土産じゃないのですか。生きた人間って、滅多に食べれないのに。ましてや、こんな若い娘、とても美味しそう」
食人鬼の視線は私に向けられたまま。瞬き一つしてないわ。怖っ。
「魔王よ。教育が行き届いてないようだな。神獣である我の仲間を食おうとは。この鬼だけでなく、一族皆殺しても問題ないな」
神獣様がマジ切れしてる。マズルに深い皺。太い牙が剥き出しに。
「構わぬ。でもその前に、儂がこやつを殺る」
まさか、魔王様も!? いやいや、食欲は三大欲求の一つだよ。殺すのはやり過ぎだわ。止めようと口を開いた時には、すでに食人鬼の体は吹っ飛んでいた。魔王様の一蹴りで。
壁には穴が開き、隣の部屋の壁にめり込んでいる。
い、生きてる……?
中を覗くと、食人鬼はピクリとも動かない。
「何事ですか!?」
宰相か側近らしい魔族が一人駆け寄る。その後ろには鎧を纏った獣人が。でも、神獣様も魔王様も無視。視線さえ向けない。
「儂は言ったはずだ。マリエールは儂の客人だと。それを食おうとは、儂を舐めておるのか?」
その質問に、血塗れで倒れている食人鬼には答えられない。代わりに答えたのは神獣様だった。
「舐めておるのだろう」
「やはり、そう思うか? 神獣」
「それしか、考えられぬわ」
怒気と殺気を隠そうとはしない。駆け付けた者たちは真っ青な顔色で、今にも倒れそうだ。肌がピリピリする。心臓も激しく鼓動する。
魔王と神獣様がゆっくりと近付く。
このまま止めなかったら、間違いなく殺すわ。周囲を見回しても、誰も止めようとはしていない。できないのね。
私は奥歯を強く噛み締めると、魔王様と神獣様の前に回り込んだ。今度は私が食人鬼を背に庇う。
「「マリエール!?」」
魔王様と神獣様の声がハモる。
「双方とも、お怒りをお静めください!! 食人鬼にとって、食人は本能のようなものです。そこを考慮して頂けませんか。魔王様や神獣様の言葉を無視したことは、傷が治り次第、適切な処罰を与えればいいのです。殺してしまえば、訂正しようとも訂正できません」
恐怖で膝ガクガクだわ。だって、真正面から魔王様と神獣様の怒気と殺気を受けてるんだもの。全身の血が引いていくのがわかる。立ち続けるのも辛い。でも、ここで、膝を折ることはできないわ。折れたら、彼の命はない。ほんと、こんなところで、王太子妃の教育が役に立つとはね。
「…………わかった。マリエールがそれを望むのなら、その意見を尊重しよう。よいな、魔王」
神獣様が折れてくれた。
「仕方ないのう……その代わり、これは儂のもので構わぬな」
そう言いながら見せるのは、私の夜食。
あ~~私の夜食が。シクシク、泣きたいわ。
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