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第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です
欲しかった言葉
しおりを挟む「……こんなに、大きな森とは思いませんでしたわ」
三日歩き続けても、まだダンジョンには辿り着かない。
正直、こんなに広大な森だとは思ってなかったよ。広いとは思ってたけどね。一応、地図持ってるけど間違ってない? ちょっと文句を言いたいわね。
「上から見たわけではないからな。実際の広さなど知らぬだろう。なんせ、奥まで歩けるほどのレベルでないしな。だが、もうすぐ着くぞ。ほら、水の音がするだろ。そこが、ダンジョンの入口だ」
「しますね、水の音」
やっと、ゴール……遠かった……疲れたなんて言えないわね。これからが本番なのに。
森の奥に行くほど、足場が悪くなっていった。木の根っ子や岩を越えたり、半ば登山かと思ったわ。それだけ、人が足を踏み入れてないってことね。
神獣様はレベルが足りないからと言ったけど、もしレベルが足りてても無理かもしれない。この私でもね。
その最大の理由が、魔力感知が効かないこと。
魔物の位置と数を感知しようとしたけど、奥に行くほど難しくなった。何かが妨害しているような、阻害されているような、そんな気がする。そこに魔力は感じない。森自体が拒んでいるかのようだった。同時に、森の広さを感知しようとしたけど無理だったしね。
人間が緊張感を維持し続けるには、限度がある。
位置と数が把握できない中、高ランクの魔物に遭遇するのを注意し、討伐しながら進むのは、かなりの体力を消耗するはず。それに、そんな危険な森の中で夜を明かすのよ。何日もーー。普通なら、寝れないわね。不眠不休に近い状態で、この森を進む。自殺行為だわ。神獣様が一緒だから、私は怪我もせず、生きて歩みを進めている。
「うむ。的確な状況判断ができることは、大きな強みだ。マリエールは強い。その強さは、才能とかではなく、血が滲むほどの努力の末身につけたものだ。誇るがいい。……おいっ、何故泣く!?」
神獣様の飾らない言葉が、私の心にスーと入り込んでくる。
そして広がる。水面の波紋のように。
えっ……私、泣いてるの?
神獣様に指摘されて気付く。
こんな風に私を評価してくれる人はいなかった。人じゃないけど。私の努力を素直に認めてくれる人は今までいなかった。
才能? 違う。
私には才能はない。
カイン殿下のように、魔力や身体能力が高いわけじゃない。元々、魔力も貴族の中で平均以下だった。使える魔法も初級レベルだった。ただ……生き抜くために、生き延びるために、私は必死で足掻いてきた。足掻いて、足掻いて、足掻きぬいて、今の私がある。
家族ではなく、カイン殿下でもなく、会って間もない神獣様が、私が欲しかった言葉をくれた。
「しょうがない奴だ。思いっ切り泣け。ほら」
神獣様は岩場の上に座ると、私が入りやすいようにスペースを空けてくれた。泣き止めと言わない神獣様の懐の深さに、私は素直に甘えることができた。
神獣様は周囲に結界を張り、私が泣き止むまでジッと温めてくれた。
こんなに子供みたいに泣いたのって、生まれて初めてだった……
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