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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
食べ物の恨みは恐ろしい
しおりを挟む魔猪のお肉って美味しいんだけど、たくさん食べれないだよね。その点、野鳥のお肉はいくらでも食べれるんだけど。
シチューに使う分以外は、小分けに密封してマジックバック内に保管。軽く凍らせたままで。ここ重要。その方がより新鮮な状態が保てるからね。後、バック内の匂いもだいぶん抑えられるしね。
「……ほんとに、料理できるんですね」
鍋を掻き回している私にそう訊いてきたのは、ジュン君だ。
これが平民に対しての問いなら失礼だと思うけど、一応、最高位の貴族の一人である私に対してなら、驚きと感嘆になるわね。
「まぁ、普通の貴族令嬢なら、シチューは作れませんね。まず、台所には立たないでしょう。必要ありませんもの。女子力が高い令嬢なら、お菓子を作るぐらいでしょうか」
婚約者にあげるために。
私はしたことないわよ。昔は、お菓子なんて贅沢品、王宮でしか食べれなかったし。生活環境が大きく変わった今は、自由に食べれるけどね。でもどこか、高級品ってイメージが刷り込まれているのよね。貧民層に近い感覚だわ。
「お菓子も作れるの?」
「お菓子は無理ですね。作ったことありませんし。作る予定もありませんわ。それに、買った方が美味しいでしょ」
「王太子殿下にはあげたりしないの?」
今日はやけに突っ込んできますね、ジョン君。
「お菓子は嗜好品ですわ」
私がそう答えると、ジョン君が首を傾げた。
「嗜好品? お菓子が?」
「私にとってですわ」
別に屑親たちのことは隠してないから、ジョン君も、詳しくなくても障りぐらいは知ってるでしょ。察してくれると助かるわ。
「ジョン、皿をテーブルに持っていけ」
察してくれたのはジョン君ではなく、上司のフランクだった。ジョン君はフランクから渡された皿をテーブルに並べる。
「ありがとうございます、フランクさん」
小声で感謝の気持ちを告げた。
「こちらこそ、ジョンが失礼をした。すまない、リラさん」
シュンとするフランク。
「怒ってはいませんので、気にしないでください」
ニコッと笑いながら私は答える。その時だ。
「我の分も当然あるだろうな」
テーブルに並べられた皿の数を見て、神獣様がわざと訊いてきた。だって、テーブルに並べられた皿の数は三つだからね。
「神獣様は生が一番だって言ってませんでしか?」
それに、一頭食した後ですよね。
「ふむ。確かにそうだが、なかなか食欲をそそる匂いだ。興味がわいた」
「そう言ってもらえると、嬉しいですわ」
ジョン君が皿を持って来たが、困っている様子。
「マリエール様、これ、どちらに置いた方がいいですか?」
テーブルの上かテーブルの下か。ペットならテーブルの下でいいけど、相手は神様、さすがに床に直置きは不味いでしょ。そもそも、尋ねること自体アウト。
フランクの拳骨がジョン君の頭に落ちた。当然よね。それから、後頭部を押さえ付け頭を下げさせた。
「「申し訳ありません!!」」
ジョン君って仕事はできるけど、ちょっと抜けてるんだよね。まぁそこが、憎めないんだけど。年上から可愛がられるタイプだわ。
「次は許さんぞ」
「ちなみに、次同じ様なことをしたら、今度は餌になさるのですか?」
「そこまで、悪食ではないわ。そうだな……細切れにして、森に撒いてやろうか。命は巡る。ちゃんとした食物連鎖だ」
冗談ぽく言ってるけど、これ冗談じゃないわ。
「だそうですよ、ジョン君、気を付けてくださいね。ほら、皿をテーブルの上に置いて。もうすぐできますわ」
お腹空いたよ。今日はいっぱい動いたからね。特に空いたよ。神獣様も涎が出てるし。
完成したシチューをスープ皿に盛る。もう一つの皿には熱々の白パン。そして、ステーキ。私も涎が出そうだよ。
「「「頂きます」」」
さぁ食べようとした時だった。
予期せぬ来客が来たのはーー
ほんと、間の悪い。どうして、このタイミング。敵だったら容赦しなかったわ。
「お父様、このような時間に、このような場所に、何用でいらっしゃったのですか?」
自然と尋ねる声は低くなった。食べ物の恨みは恐ろしいわよ。
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