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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
覗きは立派な犯罪です
しおりを挟む神獣様の言葉に、ショックを受けたままトボトボと歩いていると、やや声のトーンを落とし神獣様が尋ねてきた。
「……ところで、マリエール、後ろの二人は護衛か?」
わざわざそんなことを訊いて、どうかしたのかな? まぁ隠すことでもないので、そうだと答えた。声を潜めて。
「表向きは同業者ですけどね」
「……よく、カインが認めたな」
あ~神獣様が何を言おうとしたのか、わかったわ。神獣様なら、殿下の性質を知っててもおかしくないからね。ゼリアス様の前でも特に隠してないし、いや、隠そうなんて微塵も思ってないでしょうね、殿下は。
「護衛のことですか? 殿下には話していませんよ」
「何っ!? 話してないのか!?」
話す必要がないからね。機会もないし。
それにしても、神様をここまで驚愕させるほどって、殿下の執着の度合いがおのずとわかるわね。ちょっと引くわ。これって、もはや病的なものじゃない? 今まで、敢えて目を背けていたけど。
「リアとして、ここでハンター業をすることは話してはいますが、男の護衛を敷地内に招いていることは話していませんね」
話していなくても、周知している筈。
「……よく、放置しているな。あやつのことだから、のりこんで来るとばかり、いや、よく護衛が無事だったものだ」
ブツブツと独り言のように呟いているけど、はっきりと聞こえてるわよ。当然、後ろにいるフランクたちもね。敢えて、二人は傍観しているけど、内心はどう反応したらいいか戸惑ってるでしょうね。それにしても、さすが公爵家の子飼いだわ。口を出していいところかどうか判断できてる。
私は苦笑しながら、そんなことを考えていた。
「仮にも、婚約者の実家の子飼いですからね、下手に手を出すことができないのでしょう。まぁ手を出そうとしたら、私が止めますわ」
にっこりと微笑む。
「マリエールを敵に回すのは避けるだろうな。だとしても、何もして来ないとは、少し不気味だな」
とんでもない言われようね。否定できないのが辛いわ。
「来たくても来れないのでしょうね。教会には、傷付いた私の肉体がありますから。いい機会とばかりに、私になり代わろうとする輩も多いと聞きますし、離れられないのが現状でしょう」
それほど魅力的なものだわ。王太子の婚約者の座はね。
「物理的にか?」
私は頷きながら答える。
今なら、私が消えても不自然じゃないものね。現状は不可能に近いけど。大聖女様の結界プラス、殿下直々の護衛だもの。暗殺者百人呼んでもまず無理だわ。
「心情的にもですわ」
表向きは、殿下を庇って、呪いを受けたことになっている。そんな私を放って、こっちに遊びに来ることは、蟻に砂糖をあげてるようなものよ。敵にしてみれば、願ってもない好機が舞い込んできたと思うでしょうね。ここぞとばかり、突いてくるに決まってる。
正直、今は、危うい均衡を保っている状態。
殿下にとって、この状況は四面楚歌といえるわね。
この前会ったのも、殿下的にはかなり無理をしたんじゃないかな。さぞかし、ストレスが溜まってるでしょうね。その分、私を排除しようと模索している者たちを、嬉々として排除していると思うけど。
「……その光景、目に浮かぶぞ」
どの光景とは、訊かないでおくわ。
「私も悪いとは思っていますわ。だから、カイン殿下の好きにさせてますの。そうすれば、少しは安心なさるでしょ。普段なら、絶対に許しはしません。覗きは立派な犯罪ですから」
無駄に魔力があるのも問題よね。媒介があってこそだけど。とはいえ、トイレや浴場、寝室は死守してるわよ。当たり前じゃない。
「覗きというより、監視だな」
「綺麗な言葉で表現するとそうなりますね」
「それで済ますマリエールも、マリエールだな」
神獣様にとっては、特に考えもしないで出た言葉だと思う。でも、私はその何気ない感想がとても嬉しかった。殿下の隣に立つことを認められている気がして。なので、自然と笑みが浮かぶ。
「自覚していますわ」
「似た者同士だな」
「そうですか」
嬉しいけど、素っ気なく答えてしまう。ほんと、私って、素直じゃないよね。
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