252 / 354
第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
護衛はいりません
しおりを挟む騎士君は、鞘に入ったまま剣を中段で構えている。
そのまま、私の攻撃を受けるつもりね。それで、勝負が決まると騎士君は考えているみたい。そりゃあそうよね。鉄に木だもの。普通に考えても、木の方が強度がかなり低いわね。ポキッと折れて終わり。そもそも、私の攻撃なんて大したものじゃないって、考えてるのが見え見え。魔術師だから? だとしても、失礼よね。私が魔法を使わないって言った時点で、多少なりとも覚えがあると考えるべきなのに。
それに、木の棒で立ち合うって言ったけど、木の棒で打ち合うとは一言も言ってないわよ。
剣に触れる寸前で止めて、そのまま体を反転させたらどうなると思う? 反応できるかな、騎士君。躊躇したり、反応が遅れたら、防げないよ。こんな風にね。
「背中がガラ空きですわ」
敵に背後を取られるわよ。
その声に瞬時に反応する騎士君。いい反応。
でもね、すでに間合いに入られた上で背後を取られるのは致命的よ。こんな風に下から木の棒を振り上げられたらどうする? 達人でさえ防ぐのは難しいよね。
私はピタッと騎士君の首元で、木の棒を止めた。騎士君は動けない。
勝負あったわね。
「そこまで!! 勝者、リラさん」
フランクの声が森に響いた。
私は木の棒を下ろした。息一つ切れていない。
反対に呆然とする騎士君。まぁそうよね。騎士なのに、剣を振るうことなく終わったんだから。それも年下の小娘相手によ。矜持はズタズタなんじゃない。そこから這い上がってこそ、力が身につくんだけどね。どうなることやら。まぁ私には関係ないけど。
「……反応は、思っていたよりはよかったですね。だけど、まだまだ未熟ですわ。経験不足もあると思いますが、それ以前に見た目に騙されて、相手の実力を測れなかった。騎士君の最大の敗因はそこですね」
聞こえてますか? 聞こえてませんね。
「…………嘘だろ……」
片膝を付き、項垂れ呆然と呟く騎士君。
いつまでいるつもりかな? さっさと帰って欲しいのだけど。
「先日の野盗討伐を見て、かなりの腕前だと思っていたが、これほどまでとは……さすが、剣聖の弟子、邪教徒の本部を壊滅させた腕前。さすがですね」
感嘆の声をあげるフランク。
彼は素直に人を褒めれる人だ。謝罪もできる。初対面は最悪だったけど、今はプラスの好感度。こういう人は嫌いじゃない。
とはいえ、あまり人から褒められたことのない私は、どう返したらいいか正直戸惑う。素直に、ニコッと微笑みながら「ありがとう」って言えばいいんだけどね。私がやると、どうしても苦笑にしか見えないわね。口角がひくついてるのが自分でわかるわ……
それにしても、フランクは色々知ってるようね。たぶん、義母様に訊いたのね。
この国の双璧の一つ、第一騎士団団長ルーカス様。私は四年前から彼に剣を習っていた。知り会う切っ掛けになったのは、元屑親絡み。正式に習うのは、邪教徒絡みで私が家出した後ね。おかげで、それなりに扱えるようになった。
騎士君はよほどショックなのか、焦点が定まらない目でフランクの話を聞き私を見上げている。
「褒めても、何も出ませんわよ。それでは、約束通り、私には護衛は不要ですわ。お引き取りくださいな」
やることがまだまだ残ってるのよ。これ以上、貴方たちに時間が割けないの。さぁ、帰った帰った。
苦笑しながら、フランクは騎士君を立たせると森を出て行った。
次の日ーー。
木苺を採りに森の中を散策していると、見知った顔と出会いました。
「……護衛不要と言いましたよね」
超不機嫌な声を上げてるのは、当然私。反して、ニコニコ顔のフランク。
「護衛じゃない。修行で森に来ただけですよ」
ものは言いようですね、フランク。彼の背後には、不機嫌そうな騎士君。私と目を合わせようともしない。
修行ね……そうですか、そうきましたか。ならば、私は無視して木苺採りを続けましょうか。
掃除は一通り終わってるから、これでジャムでも作ろうかな。ついでに狩りもして。香辛料を揃えたから、煮込み料理もできるわね。それとも、木苺のソースで焼いた肉を食べるのもいいわね。野菜も茹でて。
あっ、想像すると涎が。お腹が鳴った音、聞かれてませんよね。
26
お気に入りに追加
5,474
あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~


【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる