235 / 354
第三章 超ハードモードの人生に終止符を
告白
しおりを挟む私の名を呼ぶ声は、私がよく知る声だった。かなり興奮しているわね。
いつの間にか、ゼリアス様の姿は消えていた。神様なのに、気を使ってくれたようです。あの糞女神とは雲泥の差だわ。比較するのも失礼よね。すみません、ゼリアス様。心の中で謝罪。そうしている間も、私を呼ぶ声がする。
「マリエール!!」
遠くに感じた声が近くに感じた。興奮度も増してるわね。
それにしても、思い違いじゃなかったみたい。やっぱりここは、夢の世界か……そう言えば、夢の世界って、いろんな世界に繋がってるって、前に殿下に教えてもらったわね。
だとしたら、仮死状態の私に、生者である殿下が詰め寄ることも可能なわけね。
両肩を強く掴まれた。掴めるのね。痛覚まであるわ。ちょっと痛い。まぁでも、この痛さが殿下の気持ちだと思うと、文句言えないわね。なので、
「カイン殿下、お久し振りです。お怪我がなくてよかったですわ」
そう声をかけたら、殿下は悲痛は表情をしながら眉間の皺を深くする。何故、殿下が泣きそうになってるのよ?
「…………か……と思った……」
殿下は私の両肩を掴んだまま、下を向き何か言ってる。途切れ途切れで聞き取れないわ。何て言ってるの?
「カイン殿下?」
「……また、一人残されるのかと思った」
今度ははっきりと聞こえたわ。
「もし、死んだとしても、数十年後にはまた会えるでしょ。私たちはゼリアス様の使徒なのだから」
「その数十年、俺は一人だ」
「でも、その数十年はゴールが見えてる数十年でしょ」
その差は、とてもとても大きい。だって、何度も何度も殺され続け、殺し自ら命を断ち続けるループが、あの瞬間終わりを告げたのだから。
「……だから、マリエールは俺には何も言わずに、あんな真似をしたのか」
殿下の声は怒りを含んでいた。しかしその表情は、怒りではなく悲痛な感じを受けた。殿下の怒りは私ではなく、自分自身に向いてるみたい。そういうところ、昔と変わらないわね。そんな貴方だから、私は全てを捨てることができたのよ。
昔も今もーー
「別に計画をしていたわけではありませんわ。そういう可能性はあるかもしれない。その話をゼリアス様にはしましたけどね」
「何故、俺にしなかった?」
語尾がキツイわ。
「糞女神にバレたら困りますし、それに、確信がもてませんでしたもの。あくまで、可能性ですわ。それに、カイン殿下が私の立場なら、同じことをしたのではありませんか?」
そう尋ねると、殿下は黙り込む。それが答えだった。私は続ける。
「可能性といっても、かなり高い確率だとは思っていましたけどね。……だって、そうでしょう。あの糞女神の、アレクに対しての執着は凄まじかったわ。手に入らないなら、狂わせて、壊してでも手に入れようとした。でも、貴方は狂わなかった。なら、糞女神はどうやって貴方を手に入れる? 方法は一つだけだわ。私を人質にとるしか方法はないでしょう。魂と肉体、両方を人質にとられたら、カイン殿下はどうします? 私を殺せますか?」
「ーーできるわけないだろ!!」
絞り出すような、吐き出すようなその声は、心の叫びのように私には聞こえた。本当に、優しい人ね……
私は手を上げ、目の前にある殿下の頭を撫でる。殿下は抵抗せずにされるがままだ。珍しい。かなり弱ってるわね。
「【呪い】がかけられた時は、死んでも生まれ変わることができました。でも、人質にとられたら、その【呪い】がどのように変容しているかわからない。ゼリアス様の加護があってもね。その迷いがあるかぎり、カイン殿下は私を殺せない。だから、私はこの選択をしたの」
そう告げると、やっと殿下が顔を上げた。
「だって、【呪い】が完全に解けたら、私たちは自由でしょ。使徒としての役目も一緒にこなせますし、その役目が終わったら、また人として同じ時に生まれ変われることもできますわ。違うかしら?」
にっこりと微笑みながら私は告げた。言いながら思う。これって、告白のように聞こえない? それも、かなり重いやつ。
「…………重いな」
ぽつりと殿下は呟く。
「わかってますわ!!」
「でも、嬉しい」
殿下は私を抱き締める。逞しい胸に抱かれながら、私は背中にそっと腕を回した。
やっとーー
私と殿下は、一緒に未来を歩けるのね。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
5,406
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる