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第三章 超ハードモードの人生に終止符を

告白

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 私の名を呼ぶ声は、私がよく知る声だった。かなり興奮しているわね。

 いつの間にか、ゼリアス様の姿は消えていた。神様なのに、気を使ってくれたようです。あの糞女神とは雲泥の差だわ。比較するのも失礼よね。すみません、ゼリアス様。心の中で謝罪。そうしている間も、私を呼ぶ声がする。

「マリエール!!」

 遠くに感じた声が近くに感じた。興奮度も増してるわね。

 それにしても、思い違いじゃなかったみたい。やっぱりここは、夢の世界か……そう言えば、夢の世界って、いろんな世界に繋がってるって、前に殿下に教えてもらったわね。

 だとしたら、仮死状態の私に、生者である殿下が詰め寄ることも可能なわけね。

 両肩を強く掴まれた。掴めるのね。痛覚まであるわ。ちょっと痛い。まぁでも、この痛さが殿下の気持ちだと思うと、文句言えないわね。なので、

「カイン殿下、お久し振りです。お怪我がなくてよかったですわ」

 そう声をかけたら、殿下は悲痛は表情をしながら眉間の皺を深くする。何故、殿下が泣きそうになってるのよ?

「…………か……と思った……」

 殿下は私の両肩を掴んだまま、下を向き何か言ってる。途切れ途切れで聞き取れないわ。何て言ってるの? 

「カイン殿下?」

「……また、一人残されるのかと思った」

 今度ははっきりと聞こえたわ。

「もし、死んだとしても、数十年後にはまた会えるでしょ。私たちはゼリアス様の使徒なのだから」

「その数十年、俺は一人だ」

「でも、その数十年はゴールが見えてる数十年でしょ」

 その差は、とてもとても大きい。だって、何度も何度も殺され続け、殺し自ら命を断ち続けるループが、あの瞬間終わりを告げたのだから。

「……だから、マリエールは俺には何も言わずに、あんな真似をしたのか」

 殿下の声は怒りを含んでいた。しかしその表情は、怒りではなく悲痛な感じを受けた。殿下の怒りは私ではなく、自分自身に向いてるみたい。そういうところ、昔と変わらないわね。そんな貴方だから、私は全てを捨てることができたのよ。

 昔も今もーー

「別に計画をしていたわけではありませんわ。そういう可能性はあるかもしれない。その話をゼリアス様にはしましたけどね」

「何故、俺にしなかった?」

 語尾がキツイわ。

「糞女神にバレたら困りますし、それに、確信がもてませんでしたもの。あくまで、可能性ですわ。それに、カイン殿下が私の立場なら、同じことをしたのではありませんか?」

 そう尋ねると、殿下は黙り込む。それが答えだった。私は続ける。

「可能性といっても、かなり高い確率だとは思っていましたけどね。……だって、そうでしょう。あの糞女神の、アレクに対しての執着は凄まじかったわ。手に入らないなら、狂わせて、壊してでも手に入れようとした。でも、貴方は狂わなかった。なら、糞女神はどうやって貴方を手に入れる? 方法は一つだけだわ。私を人質にとるしか方法はないでしょう。魂と肉体、両方を人質にとられたら、カイン殿下はどうします? 私を殺せますか?」

「ーーできるわけないだろ!!」

 絞り出すような、吐き出すようなその声は、心の叫びのように私には聞こえた。本当に、優しい人ね……

 私は手を上げ、目の前にある殿下の頭を撫でる。殿下は抵抗せずにされるがままだ。珍しい。かなり弱ってるわね。

「【呪い】がかけられた時は、死んでも生まれ変わることができました。でも、人質にとられたら、その【呪い】がどのように変容しているかわからない。ゼリアス様の加護があってもね。その迷いがあるかぎり、カイン殿下は私を殺せない。だから、私はこの選択をしたの」

 そう告げると、やっと殿下が顔を上げた。

「だって、【呪い】が完全に解けたら、私たちは自由でしょ。使徒としての役目も一緒にこなせますし、その役目が終わったら、また人として同じ時に生まれ変われることもできますわ。違うかしら?」

 にっこりと微笑みながら私は告げた。言いながら思う。これって、告白のように聞こえない? それも、かなり重いやつ。
 
「…………重いな」

 ぽつりと殿下は呟く。

「わかってますわ!!」

「でも、嬉しい」

 殿下は私を抱き締める。逞しい胸に抱かれながら、私は背中にそっと腕を回した。

 やっとーー

 私と殿下は、一緒に未来を歩けるのね。



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