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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
私は自分の全てを掛けて護るわ
しおりを挟む司祭の前を通り過ぎ、室内に入る私たち。
目の前の光景に、インディー様以外は冷めた目を向ける。だがインディー様は、化け物を見るような目でソフィアを見ていた。まぁ、目の前の光景は明らかに異常だからね。かなり悪い意味で。かなり引いてるインディー様を横目で見てから、私は糞女神に目を向けにっこりと笑った。
「ラスボスの登場にしては、物凄く地味な部屋ですね。仮にも神なのですから、もう少し荘厳にしてもよかったのでは? ああ、神殿がないから無理でしたよね。ごめんなさい」
私は目の前にいる女に言ってやった。すると、意外な答えが返ってきた。
「何を言ってるの、お姉様? 頭でもおかしくなったの? それにしても、成長しても変わりませんね、その残念なほどの地味さ」
そんな憎まれ口を叩きながら、ケラケラと笑い出す。まるで、ソフィアがそこにいるかのようだ。
どういうこと……? でも、この禍々しい霊力は、紛れもなく糞女神のものよ。
「……よほど相性がよかったようだな」
殿下が心底軽蔑した声で呟く。
「糞女神と完全に同化してますわね。自我までも」
反対に私は、淡々とした声で答えた。意外と冷静なのが驚きだわ。
殿下の言う通り、よほど相性がよかったから、糞女神に一方的に取り込まれることなく自我を失わなかった。これはもう、新生ビーアスといったところね。とはいえ、それほど悲観することじゃないわ。ソフィアは魔力量がかなり低い。不幸中の幸いよね。
「相変わらず、無礼な女ね。神に進化した私に対して、その態度はなに? 頭を下げなさいよ!!」
そのヒステリックな声と同時に、室内の空気が数段と重くなった。
いや、実際に上からの圧力で、私と神獣様だけ押し潰されそうになってる。結界を張っていなければ、確実にペチャンコだわ。本気で私を殺る気ね、ソフィア。自我があっての行動よね。
「なっ、何でペチャンコになんないのよ!!」
さらに、ソフィアのヒステリックな声が響く。ますます、空気が重くなった。
「……黒い靄?」
インディー様の呟く声が聞こえた。
「瘴気ですわ」
多少でも魔力を持っていれば、ソフィアの体から湧き出る黒い靄が見えるはず。
「瘴気!?」
インディー様の焦る声。
「当然ですわ。ソフィアと同化しているのは、邪神ですからね。……ところで、いいのかしら? 貴女のお友だちが次々と倒れてますけど?」
親切だから、教えてあげたわ。
倒れてるのは、別名、糞女神のお気に入り。
濃度の濃い瘴気は猛毒ってことを忘れたの? それとも知らなかった? それとも、どうでもよかったの?
十二歳の子供の側に侍る美少年に美青年。
なかなか、衝撃的な光景だったわ。インディー様、ドン引きしてたもの。でも今は、全く違う光景に衝撃を受ける。
ソフィアは地面に転がり悶絶しているお気に入りたちを見て、表情一つ変えずに言った。
「あらあら、可哀想に。お姉様のせいで、こんな目にあって。こんなに苦しんだら、せっかくの顔が不細工になっちゃうじゃない」
最後の方は笑みを浮かべていた。でも、その目は全く笑ってはいない。私たちは、そんなソフィアの様子を鋭い目で睨み付ける。
「その人たちを、どうするつもり?」
「どうするって? いらないから、ポイね。もう助からないし。顔も醜くなっちゃてるしね。可哀想だから、お姉様が助ける?」
無邪気な表情でソフィアは尋ねる。
「……出来ないわね」
どんなに延命処置をしても、助からない。
「そう。なら、ポイしちゃお」
ソフィアがクスクスと笑いながら言った。ソフィアが手を上げた瞬間、私は殿下に腕を掴まれ引き寄せられていた。
「……カイン殿下」
呆然と呟く私。殿下はさらに険しい表情でソフィアを睨み付けていた。
「残念。もう少しで、お姉様を殺すことが出来たのに」
心底、残念そうなソフィアの声に殿下が激高する。
「もう二度と、貴様の思い通りにはさせてたまるか!! マリエールを傷付ける奴は、この俺が消し去る!!」
…………カイン殿下。
「おかしなことを言うわね、アレク。散々、お姉様を手に掛けておきながら、そんなことを言うの」
私を掴んでいた手が、ビクッと震える。表情は変わらないけど、突かれたくない場所を突かれた。でもそれは、わかっていたことだ。絶対、糞女神はそこを突いてくる。精神的に追い詰めるためにね。
「そうさせたのは、糞女神、貴女でしょ。女神が人間を横恋慕したあげく、アレクを手に入れるために、心を壊そうとしたんだから。そこまでしても手に入れられなかったんだから、笑いものよね。いい、糞女神。私はアレクを恨んではいないわ。アレクが過去世の私を手に掛け続けてくれたから、私はこの場にいるのよ」
殿下を精神的に追い詰めるつもりなら、私は自分の全てを掛けて殿下を護るわ。
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