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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
呪い
しおりを挟む周囲を警戒しながら薄暗い廊下を進むなか、私はポツリと呟く。
「通じ合うね……」
傍から見たら、そう見えるのね。
インディー様にそう言われて、正直複雑だった。どう反応したらいいか困るわ。だって、四年前までは殿下から逃げようと必死だったからね。
糞女神の【呪い】のせいで、私は何度も何度もアレクに命を奪われ続けた。そして同じ数だけ、アレクは自分で自分の命を断ってきた。普通なら、完全に心が壊れ、糞女神の望み通りになっていただろう。でも、アレクは耐え続けた。心が壊れ掛け、もう一人の自分を作りだすほどになるまでーー
奪われる側。
奪う側。
両者とも、記憶を失うことは一度もなかった。
今も、当時の苦しみと悲しみ、絶望をまざまざと思い出すことができる。気を抜くと、震えて動けなくなりそうで怖い。死の瞬間を覚えてるのは、かなり心を蝕むんだよ。
ほんとうに、これって【呪い】よね……
てっきり、肯定されると思っていたインディー様は、微妙な雰囲気の私と殿下の様子に首を傾げている。【呪い】を知らないから、当然だけど。
「……この二人は、そんな生半可な繋がりではないぞ」
インディー様の隣にいる神獣様が、重々しい声で言う。
「確かに生半可ではありませんね。……どこよりも強く、どこよりも暗い繋がりですわ」
「暗い? どうして?」
インディー様の呟く声が聞こえた。来世を誓い心中した二人が夢を叶えたのに何故? って思ってるのね、きっと。
「闇を光に反転させるのだろう」
神獣様が力強い声で告げる。
「ええ。そのために、私は戦う力を身に付け続けたのよ。カイン殿下もね」
私はそう言いながら殿下を見上げる。殿下は優しい顔で頷いた。
「俺は、マリエールと共に歩み続ける未来を手に入れたい」
それって、まるで結婚を申し込んでいるように聞こえるわ。そう思ったら、顔が赤くなってしまうじゃない。
「マリエールは?」
返事をしない私に、再度、殿下は訊いてきた。こういうところは、昔と変わらないわね。ほんとわ意地悪なんだから。
「……さぁ、先のことは私にはわかりませんわ。ただ……やりたいことがたくさんありますの。それを叶えたいですわ」
これは照れ臭さから言ったんじゃない。私の本心。十八歳までしか生きれなかった私が、もし生きのびたらしたかったこと、山のようにあるの。傍からみたら、頭を傾げる様な子供っぽいことばかりだけどね。
「そうか……なら、なんとしても勝たなきゃいけないな。……マリエール、もし許してくるのなら、俺は君の隣にいてもいいだろうか?」
私に許可がなくても、いろんな理由を付けて側にいるくせに。
「王太子殿下なのに?」
「そういうマリエールは、王太子妃なのに?」
「あら、私はまだ王太子妃ではありませんよ。ただの婚約者ですわ」
「違う。マリエールは、俺の妻になる女だ」
その言葉の裏を感じ取る。もしかして、殿下は王太子を退く覚悟がある。私のために。
殿下の真剣な目に、私は迷いがないことを知った。
「……宜しいのですか?」
そう尋ねずにはいられない。
「構わない。昔から、俺の行動力の源はマリエールだった。それが変わることはない」
熱烈な言葉ですが、重い、重過ぎるわ。
「もし、逃げたら?」
「追い掛けるに決まってるだろ」
うん。やっぱり、重い。でも、殿下らしい。口元に笑みが浮かぶ。
「だったら、とことん逃げてみましょうか」
「なら、俺はどこまでも追い掛ける。そして、捕まえる」
これは殿下の本心。
重たいけど、嬉しいって思うのは、私も殿下に感化されたから?
「いい加減にせぬか。気持ちはわかるが、敵地だぞ。それも、この扉の奥にいるのだぞ、わかっているのか!?」
「相変わらず、バカップルですね。時と場所を選んでください」
神獣様とインディー様に叱られたわ。緊張感がないのはわかったから、そんな生温かい目で見ないで。
「……ところで、一応、ノックした方がいいのかしら?」
念のために訊いたら、全員に溜め息を吐かれたわ。
「それじゃあ、行儀よく、ノックして入ろうか」
殿下が苦笑しながら言った。あ、馬鹿にして。
まぁ、ノックは必要なかったけどね。この後直ぐに扉が開いたから。
「主が首を長くしてお待ちですよ」
姿を見せたのは、門扉にいたあの司祭だった。相変わらず、気持ち悪い笑みを浮かべながら立っていた。
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