今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
229 / 354
第三章 超ハードモードの人生に終止符を

呪い

しおりを挟む


 周囲を警戒しながら薄暗い廊下を進むなか、私はポツリと呟く。

「通じ合うね……」

 傍から見たら、そう見えるのね。

 インディー様にそう言われて、正直複雑だった。どう反応したらいいか困るわ。だって、四年前までは殿下から逃げようと必死だったからね。

 糞女神の【呪い】のせいで、私は何度も何度もアレクに命を奪われ続けた。そして同じ数だけ、アレクは自分で自分の命を断ってきた。普通なら、完全に心が壊れ、糞女神の望み通りになっていただろう。でも、アレクは耐え続けた。心が壊れ掛け、もう一人の自分を作りだすほどになるまでーー

 奪われる側。

 奪う側。

 両者とも、記憶を失うことは一度もなかった。

 今も、当時の苦しみと悲しみ、絶望をまざまざと思い出すことができる。気を抜くと、震えて動けなくなりそうで怖い。死の瞬間を覚えてるのは、かなり心を蝕むんだよ。

 ほんとうに、これって【呪い】よね……

 てっきり、肯定されると思っていたインディー様は、微妙な雰囲気の私と殿下の様子に首を傾げている。【呪い】を知らないから、当然だけど。

「……この二人は、そんな生半可な繋がりではないぞ」

 インディー様の隣にいる神獣様が、重々しい声で言う。

「確かに生半可ではありませんね。……どこよりも強く、どこよりも暗い繋がりですわ」

「暗い? どうして?」

 インディー様の呟く声が聞こえた。来世を誓い心中した二人が夢を叶えたのに何故? って思ってるのね、きっと。

「闇を光に反転させるのだろう」

 神獣様が力強い声で告げる。

「ええ。そのために、私は戦う力を身に付け続けたのよ。カイン殿下もね」

 私はそう言いながら殿下を見上げる。殿下は優しい顔で頷いた。

「俺は、マリエールと共に歩み続ける未来を手に入れたい」

 それって、まるで結婚を申し込んでいるように聞こえるわ。そう思ったら、顔が赤くなってしまうじゃない。

「マリエールは?」

 返事をしない私に、再度、殿下は訊いてきた。こういうところは、昔と変わらないわね。ほんとわ意地悪なんだから。

「……さぁ、先のことは私にはわかりませんわ。ただ……やりたいことがたくさんありますの。それを叶えたいですわ」

 これは照れ臭さから言ったんじゃない。私の本心。十八歳までしか生きれなかった私が、もし生きのびたらしたかったこと、山のようにあるの。傍からみたら、頭を傾げる様な子供っぽいことばかりだけどね。

「そうか……なら、なんとしても勝たなきゃいけないな。……マリエール、もし許してくるのなら、俺は君の隣にいてもいいだろうか?」

 私に許可がなくても、いろんな理由を付けて側にいるくせに。

「王太子殿下なのに?」

「そういうマリエールは、王太子妃なのに?」

「あら、私はまだ王太子妃ではありませんよ。ただの婚約者ですわ」

「違う。マリエールは、俺の妻になる女だ」

 その言葉の裏を感じ取る。もしかして、殿下は王太子を退く覚悟がある。私のために。

 殿下の真剣な目に、私は迷いがないことを知った。

「……宜しいのですか?」

 そう尋ねずにはいられない。

「構わない。昔から、俺の行動力の源はマリエールだった。それが変わることはない」

 熱烈な言葉ですが、重い、重過ぎるわ。

「もし、逃げたら?」

「追い掛けるに決まってるだろ」
 
 うん。やっぱり、重い。でも、殿下らしい。口元に笑みが浮かぶ。

「だったら、とことん逃げてみましょうか」

「なら、俺はどこまでも追い掛ける。そして、捕まえる」

 これは殿下の本心。

 重たいけど、嬉しいって思うのは、私も殿下に感化されたから?

「いい加減にせぬか。気持ちはわかるが、敵地だぞ。それも、この扉の奥にいるのだぞ、わかっているのか!?」

「相変わらず、バカップルですね。時と場所を選んでください」

 神獣様とインディー様に叱られたわ。緊張感がないのはわかったから、そんな生温かい目で見ないで。

「……ところで、一応、ノックした方がいいのかしら?」

 念のために訊いたら、全員に溜め息を吐かれたわ。

「それじゃあ、行儀よく、ノックして入ろうか」

 殿下が苦笑しながら言った。あ、馬鹿にして。

 まぁ、ノックは必要なかったけどね。この後直ぐに扉が開いたから。

「主が首を長くしてお待ちですよ」

 姿を見せたのは、門扉にいたあの司祭だった。相変わらず、気持ち悪い笑みを浮かべながら立っていた。


しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...