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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
室内へ
しおりを挟む四年ーー
やっと、男を捕捉することが出来た。カイン殿下やオルガ義兄様を、隷属化しようとしていた事件以後、ずっとずっと探していた男だ。
糞女神の手掛かりに繋がる男。
その男が、今、目の前にいる。
絶対に逃さないわーー
司祭の格好をしたその男は、私たちを見てニンマリと嗤う。あまりにも気持ち悪い笑みに、顔が少し歪んだ。
「お待ちしておりました、カイン殿下、マリエール様。おやおや、招かれていないお客様もいらっしゃいますが、どうぞ中へ。我が主が首を長くしてお待ちです」
そう告げると、司祭は軽く頭を下げ消えた。
無人なのに、門扉が金属の特有の音をたてながら左右に開く。
司祭が主というのは糞女神しかいない。ならあの男は糞女神の所に戻っただけだ。間違いなく、この建物の中に糞女神はいるーー
「我を招かれない客とぬかしたな」
「……消えた?」
神獣様はやや憮然としながら、インディー様は驚きの声をあげる。
「やはり、バレていたみたいですね」
呟いている一人と一頭は横においといて、私は殿下に告げた。
「眷属である、大蛇を倒したからな」
「それに、転移魔法陣を使用したからでしょうね。ここからは、より慎重に」
「そうだな。じゃあ、行くか」
慎重と言いながら、その口調は力が抜けるほどお気楽だ。でも、その声音はとても固い。
「行きますか」
「さっさと、済ますぞ」
殿下の合図に、私と神獣様も返事をする。
それに慌てたのはインディー様。
「ちょっと待ってください!! 乗り込む前に、せめて打ち合わせを!?」
インディー様が目の前で両手を広げます。自然と足は止まった。普通、インディー様でなくても同じ行動をしますよね。だけど、私たちが相手するのは、普通の相手ではないからね。普通は通用しませんよ。
「打ち合わせって、どう進むかですか? もしくは、はぐれた時にどう対処するかとかですか? 必要ありませんわ。まとまって進みますからね。それに、はぐれて捕まったら終わりですよ。あっでも、インディー様は美形ですから、鑑賞用にされるかもしれませんね」
糞女神に。あの女神、部類の美形好きだからね。
必要がないので、きっぱりと否定した。その方が親切だからね。最後は必要ないかもしれないけど。
「……鑑賞用? 意味がわかりませんが。やけに詳しいですね、マリエール様。もしかして、この教団と関わりがあるのではありませんか?」
インディー様の目が鋭いわ。あっでも、美形は否定しないんですね。
「そうですね。私も殿下も関わりはありますね。直接ではありませんけど。そして、神獣様も」
これ以上は話さないわよ。だって、この場は問い詰める場ではないんだから。
殿下は、まだまだ何か言いたそうなインディ様を押し退ける。私たちは門扉を潜った。
インディー様唇を噛み締め、私の後ろを付いて歩く。
嘘は言ってない。むしろ、正直に答えてるわね。意味はわからないと思うけど。真相を話してはいないから仕方ないわ。それに繋げる要素も少ない。完全に蚊帳の外。その苛立ちと不信感が表情にありありと出ている。インディー様にしたら珍しいわね。一応、敵陣の真っ只中だということを忘れないでね、インディー様。
そんなことを思いながらサクサクと進む。敵は襲ってはこない。人の気配が一切しないわね。扉の前まで来たわ。
ほら、屋敷に入るわよ。
殿下が扉に手を掛ける。そして、押した。
ギギィという音をたてながら、扉がゆっくりと開く。
仄かな灯りが灯っている。
まだ昼間なのに薄暗い。室内に光が射し込んでいないからだ。分厚いカーテンが光を遮っている。だが、不思議なことに、真っ赤な絨毯が一面に敷かれているのははっきりと見えた。
エントランスの奥に人が立っているのもーー
その人影は一人。侍女だった。
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