今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第三章 超ハードモードの人生に終止符を

それ、もう本じゃないよね

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 隠し扉っていうよりは、貯蔵室の扉って感じよね。ジャムの瓶が出てきても驚かないわ。そんな感じの扉。

 だから一瞬、この扉がそうなのか判断出来なかった。隠し方も雑な気がするし。不自然な布一枚だったからね。とはいえ、それらしきモノは見当たらないから、この扉が外に通じる扉の可能性は大だわ。

 まぁ、開ければわかることだけど。でも、簡単に開けれない。躊躇する。だって、

「罠である可能性も考えられますよね」

 インディー様の手が止まってるのは、これが理由。

 開けた瞬間、ドカンは嫌よね。とはいえ、開けないことには話は進まない。手を止めてる時間はないわ。

 固まっているインディー様を横において、殿下が扉に手を伸ばす。慌てたのはインディー様。

「何しようとしているんですか!!」

 インディー様はそう叱責すると、殿下の手を遮り取手に手を掛けた。

「お前がグズグズしてるからだ」

 面白くなさそうな顔をして殿下が言うと、すかさずインディー様が言い返した。

「殿下が考えなしなのです」と。

 ……始まったわね。いつもの言葉の掛け合い。殿下、手が取手から離れてますよ。相変わらず仲がいい二人よね。だけど、今はそんな余裕ないんじゃない。これだから男は。全く。仕方ないわね。ここは私が開けましょう。ちょっとドキドキするけどね。罠? こんな狭い部屋で発動したら、どこにいても全員ただではすまないわよ。結界を張ってもね。

 じゃれ合ってる二人の横で、手を伸ばし取手を引っ張る。

 ギーと音をたてながら扉が開いた。ヒヤッとした空気が頬を撫でる。同時に、男二人が「あっ!!」と声を上げた。

「マリエール様!!」
「マリエール!!」

 ほんと仲がいいわね。同時だよ。インディー様と殿下の文句は後で聞くわ。

「やっぱり、ここが入口のようですね」

 とりあえず、ドカンがなくてホッとしたわ。薄暗くて下が見えない。下に降りるには、この縄梯子を使うみたい。

「……行くしかないわね」

 私はそう呟くと、手近にあった布に魔法で火を点け下に落とした。

 途端に、ガサガサと音がする。チラリと黒い何かが見えた。この明かりではここまでが限度ね。

「下に何かいますね」

 取り敢えず、下に何がいるのか確認するのが先ね。どうやって確認しようかな。

「だったら、これらを燃やすか?」

 そう言いながら殿下はニカッと笑う。私とインディー様は引き攣り笑い。だって、殿下が持っている本から、グゲゲって意味不明な唸り声がするんだけど。舌らしきものも見えるんですが。よく平気で持てるわね。それよりも、

「……それ、絶対燃やしたら駄目なものでしょう」

 私の台詞にインディー様は大きく頷きます。だけど殿下は「そうか?」と舌を出す本を見ながら言った。

 それ、もう本じゃないよね……。

「燃やして、封印されてる魔物が出てくると面倒くさいので、絶対に燃やさないで下さい」

 そう告げると、渋々本から手を離した殿下。本はそのまま垂直落下。

「グゲッ!!」って悲鳴が足元から聞こえた。うん。確かに聞こえた。そのまま、細い手足がシュッと出てきて、本は一目散に逃げて行った。

 本は普通逃げないよ……。

 
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