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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
それが、どうかしましたか
しおりを挟む糞女神が肉体を持ったーー。
その事実が、私たちにどれ程の光をもたらすか、目の前にいる大聖女様には分からないだろう。
それは本当に、本当に、僅かな光。
だけど、その光は明らかに強くなったのを私は全身で感じたんだよ。それは殿下も同じだと思う。
微かに、その体が震えているから。
だってそうでしょ。私や殿下がどんなに魔力があって強くても、糞女神とはいえ、神様を殺せる可能性は低かった。皆無だった。
創世神ゼリアス様の使徒になったとしてもね……。それ程、神に挑むってことは困難だということなの。神に造られた存在の私たちにはね。正直、痛め付けるのも命を対価にしてやっと出来るのが現状。
そうーー現状だった。今までは。
私はこの日を忘れない。絶対に。
散々自分たちの人生を狂わせ、そしてその命を、自分の身勝手な願いのために、欲望のために奪い続けてきた。
そんな糞女神を殺せるのよ。いや、違うわね。苦しめ、殺すことが出来るのよ。
自然と口角が上がるわ。俯いているから、目の前にいる大聖女様には見られなくてすむわね。誰にも見せられないわ。今の私の顔。
とても醜悪で恍惚に満たされた笑顔だから。
人間の醜さが全面に出た笑顔よね、たぶん。使徒がこんな顔したら駄目だと思うけど、止められない。
人が居なかったら絶対声を上げて笑ってたわね。声を出さずに我慢した自分を褒めたいわ。
「…………王太子殿下。グリード様。貴方がたは一つ忘れてはいませんか?」
暫く黙っていた大聖女様が、厳しい声でそんなことを訊いてきた。あまりにも厳しい声だったから、意識が少し大聖女様に向いた。隣を見上げれば、殿下も同じだった。
「邪神ビーアスを倒すということは、一人の人間を殺すということです。その未来を奪うということと同じです」
そりゃあ、そうよね。だから何? 今更、倫理を問われてもね……返事なんて思い浮かばないわ。でもね、これだけは言えるわ。
「「それが、どうかしましたか?」」ってね。殿下と綺麗にハモったわ。
「……人の命を奪うのですよ」
まさか、一切動揺もせず、そう切り替えしてくるとは思わなかったみたい。反対に、大聖女様の方が明らかに動揺してるよ。
「それは分かっている。その上で質問しているのだが」
殿下が平然と答える。別に追い込んではいないんだけどね。
大聖女様は返答に困っていた。言葉が出てこないみたいだね。まぁ、普通の人生を歩んでたら出てこないわね。
「大聖女様も創世神ゼリアス様と一緒に、邪神ビーアスと敵対し、私たちに手を貸して下さってます。直接手を下すか、下さないかの差ですわ」
ほんと、我ながら意地悪な言い方よね。でもね、今更そんなこと言われても困るのよね。少なくとも、私たちより早く、大聖女様は対処法を知っていたんだから。使命感と罪悪感に苦しむのは分かるけど、私たちを巻き込まないで欲しい。
「…………」
大聖女様は私を厳しい目で見る。
「……いくら悩んでも、答えは出て来ることはないでしょうね。
如何なる人間であっても、人の未来を奪う権利は私たちにはありませんわ。例え、創世神ゼリアス様が許して下さっても。それでも、私たちは躊躇わずに奪うでしょう。
……これでも、十分理解していますのよ。只の私怨で動いていることを。
ただ……全てを終わらせたいのです。
奪われ続けた未来を取り返したいのです。殿下と一緒に」
そっと殿下は私の肩を引き寄せてくれた。
「…………奪われ続けた未来……」
「大聖女様。私とマリエールは何度も何度も、奴らに未来を奪われてきた。何も手を下さなければ、四年後また死ぬだろう。
これは、私とマリエールの存亡を掛けた戦いなんだ」
「…………」
押し黙っている大聖女様に私は静かに告げる。
「理解してもらわなくても構いませんわ。初めから無理でしょうから。だって、私たちの苦しみと痛みを理解なんて出来ませんでしょ。
平然としている私たちを、内心非難されても構いませんわ。
なので、二度とこのような質問は止めて欲しいのです。決して交わることのない、平行線を辿るだけの問いに、何の意味があるのでしょう。虚しいだけですわ」
それに、お互い嫌な思いをするだけだし。
「歩み寄ることは出来ないのですか?」
不可能ね。
「表面上は出来るだろう。しかし、心から歩み寄ることも理解することも不可能だ」
私が口を開くより早く、殿下がはっきりと否定してくれた。
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