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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
大聖女様の言い分
しおりを挟む確かに、私は欲望に忠実な少女と聞いた時、真っ先にソフィアを思い浮かべた。まんまだったからね。
だけどまさか、大聖女様の口からその名前が飛び出すとは思ってもいなかった。いや、そもそも知っでるなんて思いもしなかった。だってここは、現実世界と掛け離れた世界だから。でも実際は、そうじゃなかったみたい。
「…………どうして……その名を?」
声が震える。さすがに動揺が隠せない。そんな私の手を、殿下が強く握ってくれた。おかげで、醜態は晒さないですんだよ。ありがとう。
「実は、邪神ビーアスが降臨したのは二か月前なのです」
二か月前!?
つまり、そんな前から知っていて、私たちを除け者にして動いていたって事!? 何かしらの理由はあるからそうしたんだと思うけど、それでも、文句を言わなきゃ気が済まないわね。当事者が除け者にされて何も感じない訳ないでしょ。
「だったら、何故報告しなかった?」
当然そう訊くわよね。
殿下の声は不快感と警戒心アリアリだった。
「創世神ゼリアス様に止められておりました。それに、私自身もその方がよいと判断しました」
教会独自の判断ではなかったってことなの? 創世神ゼリアス様の存在を信じない者にとったら、言い訳だと思って鼻で笑うでしょうね。
でも、私と殿下は知っている。創世神ゼリアス様の存在を。夢の中だったとはいえ、直接会ったのだから。使徒にもなったのだから。
「何故です?」
今度は私が尋ねた。理由が聞きたいわ。さぁ、早く。
「アイリーンは皆様が知っての通り、邪神ビーアスは過去世において、大して実力のないアイリーンを己の聖女に据えました。
……邪神ビーアスが異様な執着を持っている人間は二人。勇者アレクと嘗ての聖女アイリスです。
それは生まれ変わっても変わらなかった。
アイリーンには、常に教団の、邪神ビーアスの監視の目がありました。当然、王太子殿下にもありましたが、王太子殿下自身がしっかりと防衛なさっておいででしたので、監視の目はかなり緩かった。
もし……御二方が邪神ビーアスが降臨なされた事を二か月前に知ったとしたら、どうなさります? 直ぐに調査に向かわれたのではありませんか? それも、自分自身で。
結果それは、アイリーンを通して教団側に知られた筈です。
降臨したばかりは、力もろくに扱えません。ましてや、今度は錨という肉体を纏っています。肉体を破壊すれば、精神体である邪神ビーアス本体もダメージを与える事が出来ます。
お分かりですか?
二か月に教団に知られたら、今以上に深く潜られる可能性があったのです」
言葉が出なかった。殿下も私も黙り込む。
確かに、大聖女様の仰る通りだ。今以上に深く潜られたら、私と殿下では対処するのは不可能だった。
その先にある未来を想像して、足が震えそうになる。私は必死で足を踏ん張った。
一番警戒していただろう時間を無事に越せたからこそ、教団側に緩みが出たとしたら、創世神ゼリアス様と大聖女様の判断は正しかった。
突破口を開けてくれたのは、間違いなく創世神ゼリアス様と大聖女様だ。
「……助かった。礼を言う」
「助かりました。ありがとうございます」
殿下と私は創世神ゼリアス様と大聖女様に心から感謝した。
「当然のことをしたまでです。礼を言われることではありません」
口調は固めだけど、大聖女様の雰囲気がとても柔らかくなった。口元には僅かだが笑みが浮かんでいる。
「話を戻しますが、今、邪神ビーアスはソフィア=ラングの肉体に寄生しています。只の人が、神を降ろしたのです。肉体は見る見る間に劣化していると考えられます。
としたら、次の錨は誰になるのでしょう」
その答えは明白だった。
「……アイリーンか」
「アイリーンしか考えられませんね」
「ええ。その通りです」
大聖女様はコクリと頷いた。
教団が何故アイリーンを誘拐したのか。その理由がはっきりと分かった。そして、邪神ビーアスを叩きのめす方法も。
私と殿下の未来の先にある僅かな白い光が、更に大きくなった瞬間だった。
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