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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
消えた阿婆擦れ
しおりを挟む阿婆擦れが消えたーー。
まるで神の悪戯のように、忽然と姿を消した。
目撃者もなく寮から消えた事から、神の悪戯と囁く者もいれば、男と駆け落ちしたとか、男に誘拐されたとか囁く者もいた。噂の大半は男関係ね。本命は殿下かもしれないけど、あれだけ他の男子学生や教師に纏わり付いていたんだから、そんな噂も出るよね。
中には迷惑なことに、私に疑いの目を向けてる者もいたけどね。特に阿婆擦れの信者とかは。そういうのは完無視。
まぁ色々噂されてるけど、まず間違いなく、これは明らかに人の手によるものだ。背景には屑女神がいるけどね。
一応殿下が念のために、常に自分の暗部を二人阿婆擦れに付けていたから、誘拐時の状況は容易に知ることが出来た。
私たちが屑女神関係だって確信したのは、誘拐犯が神父の格好をしていたからだ。それも、あの避暑地で見掛けたあの神父と同じ服装。神に遣える者が着る服は同じ様で同じじゃないの。それぞれ信仰する神によって違うのよ。
だから、背景には屑女神がいると確信した訳。
「……一体、アイリーンは何処に消えたのでしょう?」
屑女神の件を考えて、私と殿下は敢えて目の届く範囲に阿婆擦れを置いていた。じゃなければ、既に退学になっていたわよ。
「配下の一人が付いているから、直ぐに居所が分かるだろう」
そう言いながら、殿下はインディー様に視線を向ける。
「兄上だから大丈夫ですよ」
そうかぁ……阿婆擦れの後を追跡しているは、インディー様のお兄さんか……なら、安心よね。
「そうですね。インディー様のお兄様なら大丈夫ですわね。今は、インディー様のお兄様が戻るのを待つしかありませんね……」
「マリエール?」
途中で俯く私を心配そうに見詰める殿下。私はその視線を感じながらも、俯いたままだった。
「……やっと。やっとですわ、カイン殿下。やっと、奴らが動き出しましたね」
私がそう独り言のように告げると、殿下も小さく「そうだな」と答える。この場にいる全員、神妙な表情で私たちを見ていた。
当然だよ。
全員、この時を静かに待っていたのだから。
元ポーター公爵家の事件から四年。
とても長い時間だった。やることは色々あったけど、精神的にはとてもキツイ時間だったわ。
神父が事件の騒ぎを利用して逃げ果せた事で、完全に屑女神に繋がる手掛かりが失ったと思えた。
それでも、折れずにいられたのは、必ず屑女神は仕掛けて来ると信じていたからだ。確証なんてどこにもない。ただ……屑女神の執着心に賭けていただけ。
曖昧な可能性にーー。
賭けた以上、限られた時間を無駄には出来ない。私は自分を鍛えることに時間を費やしたわ。殿下もそう。それぞれ、現実の役割をキチンとこなしながらね。肉体の疲れは休めば取れるわ。だけど、実体のないものを信じ続けるのは、かなり精神的にキツかった。何回も殺され続けて、精神的に鍛えられてる筈のにね……。
報われたのは新学期。
阿婆擦れを見た時に、私と殿下は賭けに勝ったと思った。
屑女神が常に手元に置いていたお気に入り。生まれ変わっても、常に身近に置いていた。殿下とは違う意味で執着されていた人間。
それが、屑女神の聖女だ。
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